前洋美

ガラス転移温度よりはるかに低い温度における混合アルカリガラスの粘度

松下和正

現在,ガラスは光学,化学,電子など様々な分野において利用され,これらの分野に用いられるガラスは高精度のものが要求される.また,近年では,高レベル放射線廃棄物をガラス状に固化し処理されており,長期間における熱安定性が要求される.そのためには,ガラス転移温度以下におけるガラスの粘性流動を正確に把握することが重要である.
また,ガラスは一般には絶縁体だが,アルカリイオンをはじめとする1価イオンを含むガラスは電気伝導性を示すことが知られている.しかし,2種類のアルカリイオンを含むガラスの電気伝導度は単一アルカリガラスの物と比べ,4〜5桁も低下し,この現象は混合アルカリ効果という.混合アルカリ効果は全アルカリ量が多く,その質量差が大きいほど効果は大きい.
ガラスの電気伝導はガラスを形成する網目構造内をイオンが移動して起こるため,ガラスの粘性流動機構と何らかの関係があるのではないかと考えた.そこで本研究では,混合アルカリケイ酸塩ガラスのガラス転移温度以上,以下における粘度を測定し,広範囲の温度域における粘度の温度依存性,混合アルカリ比による組成依存性への影響,粘性流動機構について検討した.
試料にはK2O-Li2O-SiO2系混合アルカリケイ酸塩ガラスの組成比を変化させたものを用いた.粘度測定法として,ガラス転移温度以上500℃付近の粘度域では等温ペネトレーション法,300℃付近ガラス転移温度以下の粘度域ではファイバーベンディング法を用いて測定を行った.
その結果,ガラスは低温においては弾性体だが,長い時間にわたり応力を加えると粘性変形し,熱処理時間に依存することが分かった.また,アルカリ酸化物はガラス構造に大きな影響を与え,2種のアルカリを混合することによって粘度低下することが確認され,それは,単結合強度およびイオン半径,アルカリイオン対の化学的安定性の違いによるものだと分かった.
次に,混合アルカリケイ酸塩ガラスの組成変化における粘度の依存性について検討したところ,ガラス転移温度以上,以下共にアルカリ混合比による粘度の影響は見られず,電気伝導度のような顕著な違いは見られなかった.以上より,粘度は電気伝導度の混合アルカリ効果のような顕著な傾向はなく混合アルカリの組成が熱安定性へ与える影響は小さい事がわかった.