中川陽代

パルス通電加熱法によるシリカガラスへのリン酸アルミニウム添加効果

松下和正

現在、電子基板材料として低膨張ガラスが多く用いられている。中でもSiO2-Al2O3-P2O5系ガラスは組成により屈折率が低下できると考えられ、光学デバイスへの応用が期待できる。しかし低膨張ガラスの溶融作製には1800〜2000℃の高温が必要であるため、多くの時間とエネルギーを要する。またSiO2-Al2O3-P2O5系ガラスにおいては、ガラス化範囲が狭く融液の冷却時に失透するためガラス化が難しい。このため低膨張ガラスの作製は化学気相蒸着法(CVD)やゾル‐ゲル法などの特殊な製造法によることが多く、バルク体を得るのが困難である。
本研究では短時間でエネルギー消費量の少ない製造法開発のため、パルス通電加熱法に着目した。パルス通電加熱法はプラズマ焼結法(SPS法:Spark Plasma Sintering)とも呼ばれ、先端新材料合成分野で注目されている新しい焼結法である。グラファイト製の焼結ダイ中に粉末原料を充填し、真空チャンバー中で上下からパンチ電極によって圧力とパルス電流を与えることにより焼結・溶融を行う。グラファイト焼結ダイが電極により直接加熱されるため熱効率がよく、原料の成分を損ないにくく、高速昇温が可能である。これらの特徴からSiO2-Al2O3-P2O5系ガラスの作製に適していると考えられる。原料としてSiO2,AlPO4,Al(PO3)3の結晶粉末を用い、パルス通電加熱法によりリン酸アルミニウムを添加したシリカガラスを作製し、添加量に伴う光学的及び熱的基礎物性の測定を行った。
作製した試料はAlPO4:0-3.8mol%、Al(PO3)3:0-3.1mol%までガラス化した。化学組成分析の結果、SiおよびPの蒸発が見られた。両組成において添加量の増加に伴い密度、屈折率、線膨張係数が増加した。しかしこれらの測定値について組成との加成性は成り立たなかった。このことから組成の変化によりガラス構造が急激に変化していると考えられる。両組成ともに吸収スペクトル中の紫外域で欠陥による吸収ピークが見られた。ピークはAlPO4の増加に伴い明確になり、Al(PO3)3の増加に伴い減少した。欠陥はガラス中の酸素が不足することによって生じると考えられることから、組成によってガラス中の酸素量が変化していると思われる。赤外吸収スペクトルではリン酸アルミニウム添加量が増加するに従いPおよびAlによる結合の吸収ピークが現れた。赤外吸収スペクトルからガラス構造を推察し、諸物性の測定結果と比較した。その結果、SiO2- AlPO4ガラスではtricluster(3配位の酸素に3つの正四面体の頂点が結合したもの)が生成されると考えられ、SiO2-Al(PO3)3ガラスではP=O末端が生じると考えられる。またAl(PO3)3を添加したガラスは熱処理により黄色の着色を示した。これは熱処理により分相および結晶の析出が促進され、Pのコロイドが生成されたためであると考えられる。