氏名 辻 須磨子

論文題目 サマリア添加セリア焼結体の破壊靭性および電気的特性に及ぼす微細組織の影響

指導教官名 佐藤一則


 Ce0.8Sm0.2O1.9(SDC)は、固体酸化物燃料電池(SOFC)の電解質として広く用いられているY2O3-ZrO2(YSZ)と比較すると、酸化物イオン導電率が高いことが知られており、YSZを用いた場合に1000 ℃付近となるSOFCの動作温度を低下させるための新しい電解質として期待されている。しかし同時にSDCはその機械的強度の低さが問題視されているとともに、研究の歴史が浅く、出発原料の粒径、粉体特性および焼結条件が、その焼結体性状に及ぼす影響については明らかとなっていない。特にSDC焼結体の微細組織と機械的性質および電解質特性の関係を明らかにすることは今後のSOFC開発において極めて重要な課題である。本研究では、焼結条件(温度、保持時間)によって定まるSDC焼結体の平均結晶粒径と焼結体内の気孔が機械的強度(硬度、破壊靱性値)および電気的特性(結晶粒内、粒界における電気抵抗)に与える影響を明らかにすることを目的とした。そこで、走査型電子顕微鏡を用いたSDC焼結体のミクロ構造観察を行い、気孔形状、気孔分布および気孔率が硬度と破壊靱性に与える影響を検討した。また、交流インピーダンス法を用いて、SDC焼結体の微細組織と電解質導電率の関係について検討を行った。その結果、SDC焼結体では、形状測定と重量測定から求めた相対密度に差異がなくても、その焼結体組織が著しく異なることを示した。結晶体組織の異なるSDCディスクについて、ビッカース硬さ試験および破壊靱性測定を行い、ビッカース硬度および破壊靱性値に及ぼすSDC焼結体組織の影響を検討した。ビッカース硬度は、平均気孔径および平均粒径で示す焼結体ミクロ構造のサイズ依存性が著しいことを見いだした。破壊靱性値は、平均気孔径への依存性は低いが、気孔形状および焼結体の体積当たりに占める気孔の割合(本研究では体積気孔率と定義した)に著しく影響を受けることを示した。焼結組織の異なるSDCディスクについて、交流インピーダンス法による導電率測定を行い、結晶粒界抵抗と結晶粒バルク抵抗のミクロ組織依存性を検討した。結晶粒バルク抵抗値は焼結体の平均結晶粒子径に依存せず、ほぼ一定値を示した。一方、結晶粒界抵抗値は約5μm以上の平均結晶粒子径では、粒径増大にともなう粒界密度減少により低下し、SDC電解質ディスクの導電率向上に寄与することを示した。しかし、平均結晶粒子径が約2.5μm以下では、平均粒径の減少にともなって結晶粒界抵抗が低下し、粒界密度増加と逆の関係を示した。以上の結果は、固体酸化物燃料電池の電解質として高い導電率を示すSDC焼結体の機械的強度および導電率にミクロ構造の影響が著しいことを示すものである。以上のように本研究はSDC焼結体の作製プロセスおよび焼結条件の適正化を図るために不可欠な知見を与えた。