金田武幸
自由体積理論に基づいたケイ酸塩ガラス融液の粘性流動機構の解明
松下和正
近年、光学材料や精密機器に用いられているニューガラスは高品質、高性能、均質性が要求されている。また、溶融温度は1500〜1600℃と非常に高い。そのため、ガラス製造時に大量のエネルギーを消費するだけでなく、炭酸ガスが大量に発生することから、環境門段と深く関係しているため、ガラス製造工程の最適化が求められている。そのためには、ガラス融液の物性を精確に把握することが重要である。しかしながら、ガラスの基本的な物性の一つである密度は、高温での測定が非常に困難であるため、他の物性に比べ報告例が極めて少ない。本研究ではアルキメデス2球法により高温ガラス融液の密度測定を行い、融液状態における重要な制御因子である粘度との関係を自由体積理論に基づき検討した。
汎用ガラスの代表的なNa2O-CaO-SiO2系およびR2O-2SiO2(R=Na, Li)ガラスの融液密度測定を行い、体熱膨張係数を算出し粘性流動の活性化エネルギーと比較した。その結果、膨張係数の大きいガラス程、活性化エネルギーは大きいことがわかった。これは自由体積の増加が粘性流動と深く関わっていると考えられる。そこで自由体積理論に基づいた粘度式logη=A+BV0/Vfと比容を用いて、粘度測定結果の最適化を行った。得られた定数は組成依存性を示し、本研究では特にB、V0について検討を行った。体積変化と粘度変化を表している定数Bは化学結合を表している因子と考え、単結合強度の平均値と比較し、両者には相関があることがわかった。また粘性流動に寄与しない占有体積を表すV0はイオン半径と相関があることがわかった。このことから自由体積理論はガラス融液にも適応できると考えられる。
粘度の測定値はFulcherの粘度式による最適化が一般的であるが、Tg以下の粘度には適応できない。しかし本研究で用いた粘度式は体積と粘度の関係式なのでTg以下の粘度にも適応できると考え、ファイバーベンディング法によるTg以下の粘度の実験値と、計算値を比較した。その結果自由体積理論に基づく粘度式はTg以下(200℃)〜高温ガラス融液(1200℃)までの非常に広い温度範囲において実験値とよく対応した。このことからTgにおける粘度の大幅な屈曲は、体積の屈曲に由来するものであり、自由体積の増加が粘性流動を引き起こしているということが分かった。