大峯 康誠

ウエットブラスト加工処理を施した固体電解質を用いた燃料電池の特性評価

佐藤 一則

本研究では電解質支持型セルの固体酸化物燃料電池(SOFC)において、最も多く用いられているイットリア安定化ジルコニア(YSZ)を研究対象ディスクとした。本研究目的として、電解質厚さ方向に対する平面研削加工による電解質抵抗の低減、および電解質・電極界面における電子と酸化物イオンの電荷移動反応促進を、それぞれ試みた。このために、YSZディスクに対して懸濁状態で酸化アルミニウム(アルミナ)粒子を照射するウエットブラスト加工法に着目し、電解質表面の研削加工を行った。
セラミックス系材料では本加工法の適用例が少ないために、アルミナ粒子の平均粒度と照射(ブラスティング)圧力が、YSZディスクの凹型形状加工の精密性および加工表面起伏(表面粗さ)に与える影響を検討し、最適加工条件を求めた。加工部の形態観察・測定は、表面粗さ測定および走査型電子顕微鏡(SEM)観察により行った。最適加工条件で実施したウエットブラスト処理は、YSZディスク加工表面に粗面化をもたらし、加工部はほぼ平たんな凹型であることを見いだした。加工レートおよび加工面平たん度はブラスティング圧力によって制御が容易であることから、より薄いYSZ電解質ディスクの作製により、電解質抵抗の低減が可能であることを示した。また、ウエットブラスト加工用マスク形状を変化することで、より複雑な形状の加工も可能であると考えられる。さらに、外部応力負荷に対して加工ディスク内部に発生する応力分布およびひずみ分布を、有限要素法による数値シミュレーションによって求め、電解質ディスクに十分な機械的強度を与える最適形状の検討を行った。
凹型形状にウエットブラスト加工処理したYSZ電解質に対して種類の異なった電極を接合した。多孔質Pt、Ni-YSZサーメット型電極、ペロブスカイト型遷移金属酸化物(LSM)の三種類である。いずれにおいても、電極の剥離・ひび割れ、およびディスクの亀裂発生が起こらないことを確認した。ウエットブラスト加工ディスクを用いたセルは、未加工ディスクと同様、高温雰囲気において両電極間の酸素分圧差を保つ気密性を保持した。作製した単セルの発電試験を行い、本加工処理が燃料電池性能に及ぼす影響を検討した。そのために、電池性能低下の主要因となる電極反応抵抗によって生ずる過電圧を直流分極測定法により求め、電極反応における電解質・電極界面の電荷移動に及ぼす電解質加工部の表面粗さ効果を考察した。その結果、加工ディスクを用いたセルは、未加工ディスクを用いたセルに比べ、優れた電池特性を示した。過電圧測定結果から、この効果はアノード過電圧低減に著しいことを見いだした。従って、本加工処理による燃料電池特性の向上は、電解質厚さ低減による電解質抵抗の低下と電解質表面粗面化による電極反応界面面積の増大が寄与したと考察した。
以上の結果から、ウエットブラスト加工は、ジルコニア系電解質の新たな加工技術として十分に適用可能なことを示し、機械的強度と高い燃料電池性能を兼ね備えた固体酸化物燃料電池の開発に寄与できることを明らかにした。