渡部真紀子

灰溶融において高品質スラグが得られる灰組成範囲の明確化

藤田昌一 小松俊哉 姫野修司

循環型社会、リサイクル社会の構築のため、焼却灰を溶融処理によってスラグ化し、一次資材や二次製品の材料として有効利用が行われ始めた。しかし、焼却灰の組成や溶融条件の違いがスラグ品質に影響を与え、同じ品質のスラグを安定して確保できないなどの問題点から、有効利用は十分に行われているとは言えない。そこで本研究では、実際の都市ごみ焼却灰の組成をもとに、モデル焼却灰を用いて幅広い灰組成のスラグを作成し、灰組成の違いによるスラグの材料強度と、焼却灰中に含まれる重金属の中でも特に含有量が高く、溶出報告も多い鉛溶出特性を把握することで、高品質スラグが得られる灰組成範囲の明確化と鉛の溶出機構の解明を行うことを目的とし、スラグの材料強度試験,重金属の溶出試験を行った。
スラグの材料強度試験として、すり減り試験を行った結果、塩基度1.25〜1.75の範囲において作成したスラグにGehleniteの結晶が析出し、一次資材として利用可能な強度が得られることが明らかとなった。また、酸性側・長期間における鉛溶出特性の把握を行うため、pHを4に固定して溶出試験を行った結果、スラグ中の鉛は多くの組成において約1%程度溶出するが、塩基度1.0〜1.25の範囲においては他の組成の2〜3倍程度多く溶出する傾向にあった。また、スラグの溶出判定試験であり、アルカリ側・短期間における溶出特性を把握するため環告46号法を行った結果、塩基度1.0〜2.0の範囲とすることで、鉛溶出基準を満たすことが明らかとなった。鉛溶出機構については、酸性条件においては、過剰に供給された水素イオンにより鉛溶出を引き起こすCa溶出が常に促進された条件であるため、スラグ中の鉛含有量に比例してPb溶出が起こるが、アルカリ条件においては、溶媒中でCa濃度が飽和し、Ca溶出が停止するため、スラグ中の鉛含有量にかかわらず、鉛溶出濃度は一定となることを明らかとした。
以上のことから、スラグ強度が得られ、酸性およびアルカリ性において環境安全性が得られると推察される焼却灰組成は、塩基度1.5〜1.75の範囲であると考えられた。この組成範囲に比較的近いと思われる実際の都市ごみ焼却灰から本研究と同様の溶融条件で実灰スラグを作成し、各試験を行った結果、スラグの材料強度、鉛溶出特性は、本研究で作成した人工スラグとほぼ同程度であった。よって、本研究で明らかとした高品質スラグが得られる灰組成範囲は、実際の都市ごみ焼却灰においても適用可能であると考えられた。