沼田博次

熱分解モデルを用いたガス化溶融処理における熱分解残渣及び発熱量の予測

藤田昌一, 小松俊哉, 姫野修司

現在, 我が国は大量生産・大量消費・大量廃棄型の社会活動により,一般廃棄物処理は主に焼却処理が行われ,排出される焼却残渣は埋め立て処分されてきた。しかし,近年,最終処分場の逼迫やダイオキシン類の発生抑制,循環型社会形成基本法によりマテリアル,サーマルリサイクルの必要性から, 次世代型ごみ焼却処理方法として,ガス化溶融処理法が注目され,普及が進んでいる。しかし,ガス化溶融処理は熱分解炉と溶融炉の2つの制御ポイントが存在する事から,これまでの処理法に比べ,運転制御や運転条件の決定が困難であるため,効率的な運転管理法の確立やチャーの発生量や発熱量等の性状を把握することが重要かつ必要となる。以前までに, 本研究では一般廃棄物を構成する代表的な化学物質の熱重量(TG)曲線とその重量割合による加成性を利用し,一般廃棄物のTG曲線を表現する熱分解モデルの構築を行った。そして,そのモデルは一般廃棄物の組成比を代表物質の組成比で表現可能であり,その性状を把握することが可能であることを確認した。
そこで,本研究はTG曲線による近似に加え,熱量の点からも検討を行い,一般廃棄物の組成による発熱量や熱分解後の残渣発生量や残渣発熱量について推算可能かを検討し,この熱分解モデルを用いることで,ガス化溶融処理法における熱分解炉内の現象を把握し,熱分解反応に与える影響について検討した。
まず,一般廃棄物を構成する代表物質として用いたセルロース,リグニン,キシラン,ポリエチレン,ポリプロピレン,ポリスチレンの各発熱量と各割合の加成性により計算した一般廃棄物の発熱量と熱量計を用いて測定した発熱量がほぼ一致することを確認した。したがって,本研究で用いた代表物質の妥当性を強く推察するものと考えられる。
次に,管状型電気炉を用いて各熱分解温度に対する残渣発生量,熱量計を用いて残渣発熱量を測定し,モデルの計算結果と比較した結果,熱分解残渣量は5.0wt%程度,残渣発熱量は単位RDF当りで300kcal/kg-RDF程度の誤差で把握することが可能であった。したがって,溶融炉へ投入される熱分解残渣の発生量とその燃料性を把握することが可能であり,熱分解炉内の現象を強く反映しているものであると示唆された。
さらに,本モデルを用い,熱分解炉内の熱分解反応に与える影響について熱分解温度や一般廃棄物組成の変動の2点より検討した。結果,熱分解炉内は200〜320℃,320〜450℃,450℃以上の全3段階の反応が存在し,第1段階は可燃分,第2段階はプラスチック分の割合が多いと残渣量や残渣発熱量に影響を与え,第3段階は可燃分中の成分であるキシランやリグニンの割合が残渣量や残渣発熱量に影響を与えるが温度変化による影響はないことが確認された。このことより,ガス化溶融処理の運転条件を模索した結果,450℃が最も適しているのではないかと考えられた。
以上より,本熱分解モデルを用いることで,一般廃棄物の発熱量,残渣の発生量や発熱量が予測可能であるため,熱分解ガス化溶融処理の中の熱分解工程における最適な運転条件を把握することが可能であることがわかった。