仲沢敦史
吸着熱と消化ガス中不純物の影響を考慮した消化ガス貯蔵技術の開発
藤田昌一、小松俊哉、姫野修司
近年、環境負荷の低減、循環型社会の構築が望まれおり、下水道事業においては汚泥の消化による汚泥の減量化および発生ガスの有効利用を行うことを通じて、省資源・省エネルギー対策として有用であると考えられている。この下水汚泥の消化工程で発生するガスは消化ガスとよばれ、主成分はメタン約65%、二酸化炭素約35%で、他にも窒素、水素、硫化水素、水分や微量有機物を含んでおり、全国の消化設備を有する下水処理場より年間約2億5000万m3発生しているが、消化ガス発生量の4割近くが利用されずに焼却廃棄されている。その原因の一つとして、消化ガスの貯蔵効率の悪さが挙げられる。それに対して筆者らは、吸着剤を用いた消化ガスの効率的吸着貯蔵技術の開発を行い、メタン、二酸化炭素単独と混合ガスの吸着性能評価から、メタン、二酸化炭素混合ガスの有効貯蔵量を推算した結果、同じ圧力における圧縮貯蔵と比較し、0.3MPa(ゲージ圧で2気圧)で22倍(44気圧分)、0.6MPa(5気圧)で12倍(60 気圧分)のガスを貯蔵可能であることを明らかにし、実際の消化ガスでの高い吸着貯蔵の効果が示唆された。しかし、この結果は吸着熱による温度変化を考慮しておらず、発生した吸着熱によりガス貯蔵量は影響を受けると考えられるため、吸着熱の影響を明らかにする必要がある。これまで、多成分の吸着熱がガス貯蔵量に与える影響を詳細に検討した例はなく多成分吸着熱が吸着量にあたえる影響を把握することが重要である。
そこで本研究は、多成分ガスの吸着熱の貯蔵量への影響を明らかにすることで、より現実的な消化ガス吸着貯蔵性能の評価を行うことを目的とした。まず、多成分ガスの吸着熱の算出には任意のガス組成、温度における吸着量の算出が不可欠であるため、それらを可能にする多成分吸着理論の適用を試みた。本研究では多成分吸着理論としてIAST(Ideal Adsorbed Solution Theory )を用いた。5種類のメタン吸着に適していると考えられる活性炭において、メタン、二酸化炭素の単成分吸着等温線を測定し、Toth式及び温度依存Toth式で解析を行った。求められたパラメーターを用いてIASTでメタン、二酸化炭素混合気体の多成分吸着量の予測を行った結果、誤差7%以内で一致した。次に、IASTより求めた吸着量と実際の消化ガスの吸着量を比較し、IASTを用いて評価することが可能かを検討した結果、誤差8%以内で一致した。これらの結果より、IASTにより消化ガスの任意の温度、組成、圧力での吸着量の予測が可能であることが確認された。また、吸着時に発生する吸着熱が貯蔵量に与える影響として貯蔵容器内を断熱状態と仮定し、貯蔵タンク中心部の温度上昇を考慮した貯蔵量の計算方法を示した。そして、各活性炭において消化ガスの吸着貯蔵を行った際の温度変化を考慮した貯蔵量を求め、従来の圧縮貯蔵との貯蔵効率の比較を行った結果、Activated carbon Aが最も消化ガス貯蔵に優れた活性炭であることが明らかとなった。選定したActivated carbon Aに消化ガスを0.7MPa充填すると32Kの温度上昇が予測されたが、圧縮貯蔵に比べ、0.3MPaで16倍、0.6MPaで10倍の貯蔵量を得られることが明らかになった。最後にパイロット試験機を用いて実際の消化ガスを吸着貯蔵させ、貯蔵容器内の温度上昇と本法によって計算された温度上昇とを比較し、本法が消化ガスなどの多成分ガスの吸着貯蔵能力評価に適応可能かを検討した結果、誤差3K以内で一致したことから、断熱曲線を用いることで消化ガスの吸着熱による温度上昇の予測が可能であることが明らかになった。