齋藤忍
下水汚泥との混合嫌気性消化による植物バイオマス(稲わら)のバイオガス化
小松俊哉、姫野修司、藤田昌一
近年、我が国では循環型社会の構築や環境負荷の低減へ向け、「バイオマス・ニッポン総合戦略」などのバイオマス利活用の取り組みが活発となりつつある。新潟県では米の生産に伴い大量の稲わらが発生しており、主に鋤込みにより堆肥として用いられているが、発生量の約半量は放置や焼却処分など有効利用がなされていない。このように稲わらは豊富な未利用バイオマス資源と言え、新たな利活用手法が必要とされている。
一方、下水処理場の下水汚泥消化施設は、一般的に十分長い滞留時間で運転されているため、処理負荷に余力を有するものが少なくない。下水汚泥は多種多様な微生物群と豊富なミネラル分を含んでおり、下水汚泥以外のバイオマスの生化学的なエネルギー化(メタン発酵)に貢献できるものと考えられる。このような背景から、他のバイオマスを下水汚泥と混合し、嫌気性消化を行う混合嫌気性消化が注目されている。
そこで本研究では、下水汚泥との混合嫌気性消化によって稲わらをバイオガス化し、エネルギー回収を図ることを目的とした。稲わらは組織が強固であるため、嫌気性消化への適用には何らかの前処理が必要と考えられるため、本研究では物理的粉砕、および熱による前処理を施すことにより、嫌気性消化への適用を検討した。
まず物理的粉砕では、稲わらをミキサーミルにより10 mm、5 mm、1 mmに粉砕し、粉砕の効果とその生分解性を評価する温水抽出試験および回分式混合嫌気性消化実験、下水汚泥との適切な混合比を評価する連続式混合嫌気性消化実験を行った。その結果、粉砕サイズに関わらず下水汚泥の消化は良好に行われた。また生分解性は5 mmと1 mmが10 mmより優れ、かつ両者は同程度であったことから、粉砕は5 mmが適当と考えられた。また連続試験より、5 mmは下水汚泥に対する混合比が1:0.5程度(TS比)ならば下水汚泥と同等のメタン転換率(CODベース)が得られることが分かった。しかしそれ以上の混合は、固形分の顕著な蓄積を引き起こした。
次に稲わらの生分解性を向上させ、下水汚泥に対する混合比を増大させるために、熱処理を検討した。熱処理では、1、5、10 mmに粉砕した稲わらを60〜120 ℃、15〜60分の熱で処理し、熱処理の効果とその生分解性を評価する温水抽出試験および回分式混合嫌気性消化実験、下水汚泥との適切な混合比を評価する連続式混合嫌気性消化実験を行った。
その結果、連続試験では5 mm-120℃-15分の熱処理で、下水汚泥との混合比が1:1までは、下水汚泥と同等のメタン転換率が得られ、粉砕の場合の2倍程度混合できるようになった。TSおよびCOD除去率も下水汚泥と同等以上であった。また稲わらの混合比を増加させると、消化上澄み液のCODが上昇する一方、アンモニア性窒素濃度低下する特性を示した。
以上の実験および結果から、前処理を施した稲わらと下水汚泥の混合嫌気性消化は、稲わらの有効利用に貢献できる可能性を持つことが示された。