古関健一

Ames変異原性試験による信濃川・江戸川流域の水道水および原水の水質評価

小松俊哉 姫野修司 藤田昌一

水道水の安全性は、厚生労働省が定める水質基準項目などにより、浄水場で厳しく管理されているが、近年、その水質項目には記載されていない、微量有害物質の存在が明らかになってきている。それは特に、浄水工程での水系感染症防止、および有害物質の無害化等のために行う塩素処理によって、非意図的に生成される消毒副生成物である。消毒副生成物は多種多様であり、個々の物質の分析による管理が困難なため、包括的な毒性評価可能なバイオアッセイ法による安全性管理が有効である。特に遺伝子毒性の観点からは、変異原性を評価する代表的な試験方法であるAmes変異原性試験によって評価することが有効である。
そこで本研究では、Ames変異原性試験により、2003年3月から2004年2月まで、信濃川流域3地点と江戸川流域1地点の水道水の変異原性について、その強度や特徴について調査を行った。さらに、その地点の原水が、塩素を添加されることによって、変異原性を発現する能力を示す指標である変異原性生成能(MFP)を同時に測定し、水道水の変異原性を原水MFPと浄水プロセスと複合して解析し評価を行った。
その結果、江戸川流域の水道水の変異原性(TA100 −S9条件)は、調査期間の平均値で940 net rev./Lとなり、信濃川流域の平均値1,140 net rev./Lに比べると、統計的に有意に低かった。しかし、原水MFPは江戸川流域で1,730 net rev./L、信濃川流域で1,460 net rev./Lとなり、江戸川流域の方が高かった。すなわち、用いる原水のMFPは江戸川流域の方が高いが、水道水の変異原性は江戸川流域の方が低いことが確認された。この理由として、浄水プロセスが信濃川流域の浄水場で、凝集沈殿+急速ろ過方式(通常処理)であるのに対し、江戸川流域ではこの通常処理と、オゾン+生物活性炭(高度処理)の2系列のプロセスにより給水(混合比 約6:4)していることが考えられた。これまでに、この高度処理により変異原性が低減化するという報告があり、本研究においても同様に高度処理の効果が示された。しかし、江戸川流域の原水MFPはなるべく対策を施した方が良いとされるレベルほど高くはなく、通常処理でも十分に低い変異原性を達成できるものと推定された。また、信濃川流域において通常処理の塩素注入位置の違いによる、原水MFPと水道水の変異原性の関係を整理したところ、前塩素処理を行っている浄水場で原水MFPと水道水の変異原性の差が小さくなっていることが判明した。したがって、水道水の変異原性を低減化させる上で前塩素処理を行わないことが効果的であると考えられた。さらに、両流域で水道水の変異原性に季節変動は確認できなかったが、原水MFPは信濃川流域で夏季(6,7,8月)と秋季(9,10,11月)が、春季(3,4,5月)に比べて、かつ夏季が冬季(12,1,2月)に比べて統計的に有意に高かった。また、MFPと一般的な水質項目との相関性を確認したところ、両流域でE260との間に相関性が認められた。