樋口義丈

酵素活性で見た嫌気性微生物による固形性デンプンの加水分解

大橋 晶良、井町 寛之、原田 秀樹

嫌気性処理法は下水汚泥などの固形性有機物の処理技術として広く普及しているが、下・廃水の嫌気性処理に比べ処理速度が遅く、その原因は加水分解過程にあると言われている。加水分解については、純菌レベルでの研究は進んでいるものの、消化汚泥などの嫌気性微生物群集に関する研究は数少ない。加水分解酵素は、バルク液中に溶解しているものと細菌の細胞膜表層に固着のものに分けられるが、消化汚泥内ではどちらの酵素が加水分解に大きく寄与しているのか、また加水分解細菌は基質によって加水分解酵素能が変わるのか、など実処理における加水分解に関しては不明な点が多い。そのため、固形性有機物に対する嫌気性処理能力の向上には、微生物による加水分解メカニズムの解明が重要な課題である。
そこで、本研究では、加水分解酵素としてよく知られ酵素活性を容易に測定できるαアミラーゼに注目し、バッチ実験を通して基質の違いによる消化汚泥のαアミラーゼ活性の影響を調べ、また固形性デンプン分解優占嫌気性細菌を単離し、fluorescence in situ hybridization (FISH) 法により単離菌のモニタリングを行うことで、消化汚泥における固形性有機物の加水分解について検討した。
汚泥のαアミラーゼ活性は常に一定のポテンシャルを有し、基質の投入により増加した。αアミラーゼ活性は、汚泥混合液(gross)、バルク液(filtrate)、細胞表層(net)の3形態別に評価したが、バルク液サンプルにはαアミラーゼ活性がほとんどなく、αアミラーゼは細胞表面に存在することが確かめられた。
バッチ実験において、基質消費量に対するαアミラーゼ活性の増加は直線関係であった。この線形の傾きは、デンプン加水分解細菌単位生物量当たりのαアミラーゼ活性能を間接的に意味するが、デンプンおよびマルトースを含む基質条件では同様な値を示したのに対し、グルコース単独基質の場合は他の基質条件に比べて明らかに低い値であった。これより、デンプンやマルトースを含み加水分解を必要とする基質は、デンプン加水分解細菌に何らかの要求刺激を与え、αアミラーゼ遺伝子の発現を活発化させることで、デンプン加水分解細菌のαアミラーゼ活性を上昇すると推察される。
消化汚泥より単離したデンプン加水分解細菌は新規のグループを形成した。この単離菌に特異的なDNAプローブを作成し、バッチ実験における消化汚泥中のデンプン加水分解細菌をFISHで計数測定しところ、デンプン加水分解細菌数は基質の消費量に比例して増加した。グルコース単独基質の場合にも他の基質条件と同様な菌数の増加が見られた。また、菌数当たりのnetのαアミラーゼ活性は、グルコース単独基質において低い値を示した。これは、αアミラーゼがデンプンやマルトースといった加水分解を必要とする基質に発現誘導されることを支持する上述の結果と符合していた。