中村玲美

高温多段型UASBリアクターを用いた焼酎蒸留粕廃液処理

原田秀樹、大橋晶良


 九州地区では、年間48万tonもの焼酎蒸留粕が排出され、3割以上が海洋投棄処分されている。今後、ロンドン条約の意向により天然由来の焼酎蒸留粕もその制約を受けることになり、海洋投棄に替わる実現可能な陸上処理技術を開発する必要に迫られている。焼酎蒸留粕は固液分離することにより固形部は有効利用する手段があるが、効率の良い液部の処理方法は確立されていない。

 そこで本研究では、多段型UASBリアクターを用いて焼酎蒸留粕廃液の処理を行い、その処理特性を把握した。また、UASBリアクターの問題点の1つとして廃水流入部における局所的なpH低下を防ぐために過剰なアルカリ剤の添加が必要になることが挙げられる。この高いアルカリ剤添加コストの削減を目的として、処理水を循環させてアクター内で生成されるアルカリ度を再利用する処理水循環運転を行い、アルカリ剤添加量の削減を試みた。

 その結果、処理水循環を行っていない期間(Run a)ではCOD容積負荷30kgCOD/m3/d(アルカリ剤添加量0.3gNaHCO3/gCOD)を許容し、COD除去率80%以上、アルカリ度生成能:1,000mgCaCO3/L、処理水中のVFA濃度:200〜500mgCOD/Lの安定した処理が可能であった。また、処理水循環を行ったRun bではCOD容積負荷27kgCOD/m3/d、流入COD:18,000mgCOD/L、のHRT:4hの設定で、アルカリ剤添加量0.15gNaHCO3/gCODおよび0.05gNaHCO3/Lの条件のもと、COD除去率88%以上、処理水中のVFA濃度200mgCOD/L程度と良好で安定した処理が可能であった。しかし、アルカリ剤の供給なしで処理水循環運転を行ったRun b-3では、開始後3日目までは非常に良好な処理結果が得られた(COD除去率94%以上、処理水中のVFA3〜6mgCOD/L)が、4日目のday75には急に処理水中に724mgCOD/LのVFAが検出されたため、COD容積負荷20kgCOD/m3/d(HRTを8hから12hに変更)に負荷を下げプロセスの回復を試みた。しかし、プロセスの回復は見られず完全に破綻した。急激に処理が悪化した時期にリアクター温度の低下が確認されたため、破綻の原因アルカリ度不足だけでなく、急激な温度の低下も原因の一つと考察した。

 処理水循環運転を行った期間において、供給された基質は直ちに分解されておりVFAの蓄積は見られず、リアクター下部においても十分なアルカリ度が確保されていることが確認された。また、リアクター上部へ向かうに従いアルカリ度は生成されており、処理水中には利用可能なアルカリ度が十分存在していることが確認された。

 高温多段型UASBリアクターを用いた焼酎蒸留粕廃液の処理結果より、処理水循環運転では、アルカリ剤として用いた重炭酸ナトリウムの添加量を0.3gNaHCO3/gCODから0.05gNaHCO3/gCODまで削減しても良好な処理結果が得られた。また、良好に処理が行われたリアクターでは処理水循環運転による供給廃水へのアルカリ剤添加量の削減は可能であったが、アルカリ剤を添加しない運転はいったん処理が不安定になるとプロセスの破綻を招くこともあるリスクの高いものであることが確認され、処理が不安定になった場合は供給廃水への十分なアルカリ剤の添加が望ましい。

 また、処理水循環運転では、アルカリ剤として用いた重炭酸ナトリウムの添加量を0.3gNaHCO3/gCODから0.05gNaHCO3/gCODまで削減しても良好な処理が可能であった。以上のことよりアルカリ剤添加コストも1/6に削減できることが証明された。