中村一彦

UASBとDHSリアクターによる嫌気・好気処理システムの染色実廃水への適用

大橋晶良、原田秀樹


 近年、環境問題への関心の高まりから中小河川での着色水が大きな問題として取り上げられている。この着色水の主な原因である染色廃水の色規制は窒素、リン等に代表される富栄養化には直接影響を及ばさないこともあり、水質基準項目として規制されることはなかった。しかし、放流基準を満たしている場合でも着色汚染を引き起こし、外観的にはさほど浄化された印象を与えていない場合が多く、日本、欧州では染色廃水の法律による規制が厳しくなってきている。現在、日本国内での染色廃水排出量は約100万 m3/dayにおよび、従来のような凝集沈殿法や活性汚泥法を単一または併用して行う他に、色を取り除くためにオゾン、活性炭などを用いている。これらには膨大なエネルギーを費やすためにランニングコストが増加することや処理に伴い産業廃棄物が発生するなどの問題を抱え、新しい処理技術に期待が寄せられている。

 また、その一方で生物処理による染料分解が数多く報告させている。それらの報告により嫌気性微生物が染料を還元開裂により脱色する事が明らかとなってきている。そこで、本研究では下水処理において卓越した有機物処理の実績を誇るUASBリアクターとDHSリアクターの嫌気・好気システムを適用し、嫌気性処理による脱色および後段の好気性処理による有機物および残存染料の分解性を調査した。実染色廃水の長期連続処理実験を行い,また、新しい試みとして嫌気・好気の循環による効果について調べた。

 その結果、UASB循環、UASB-DHS循環を経てトータルシステムでは、実工場廃水COD除去速度は約3 kgCOD・m-3・day-1程度となり、実工場廃水を100 mgCOD/Lまで低減し、易分解性有機物をほとんど除去した。これより、本システムの実染色廃水へ適応においても低コストな有機物処理がおこなわれるという事が実証された。HRTはUASB 8 hrとDHS 8 hrのトータル16 hrで良好な処理が行われた。また、高濃度の硫酸塩を含む実染色廃水においても、UASB循環を行うことで硫化水素阻害を低減し安定した処理を行うことができた。しかし、廃水中に高濃度硫酸塩を含む事からも、UASB内ではメタン生成細菌よりも硫酸塩還元菌が優先したため、研究目的の一つであった創エネルギーであるメタン回収は達成できなかった。色に関しては、実工場廃水への染料添加により染料の分解が確認でき、その吸光度よりもとめた脱色率は44-72%であることがわかった。しかし、この脱色率は色のみならずその他の因子の吸光度への影響もあり、脱色程度をそのまま反映しているとは言えない。最終的には、UASB循環、UASB-DHS循環を経て透視度は2.5 cmから最高30 cmまで上昇し、明らかに透明感は上昇し脱色効果が確認された。