水圏土壌環境制御研究室 中村明靖

Real-Time PCRを用いた嫌気プロピオン酸酸化細菌のヒドロゲナーゼ発現の定量

指導教官  大橋晶良、井町寛之、原田秀樹


 近年、55℃付近で稼働し従来のUASBプロセスに比べ非常に高い処理性能を有している高温UASBプロセスの開発が行われている。しかしながら、高温UASBプロセスは環境変動などによる外的ストレスに対して弱く、最も広く知られている問題としてプロピオン酸の蓄積がある。この問題の解決の糸口は、高温嫌気条件下にてプロピオン酸の分解を担っている微生物にあると考え、2000年に世界で初めて高温嫌気条件下でプロピオン酸を酸化分解する微生物の分離がされた。高温嫌気プロピオン酸酸化細菌(Pelotomaculum thermopropionicum strain SI)は水素資化性細菌と共生しなければ生存できず、種間水素伝達共生が成り立っているといえる。しかし現在まで、詳細な共生関係の構築状況の報告が無い。そこで、種間水素伝達共生関係の鍵となっている水素の放出・取り込みを司っているヒドロゲナーゼ遺伝子の定量解析を行うことで詳細な共生関係の構築状況を把握することができ、高温嫌気性廃水処理の運転指針を提案できると予測した。そこで本研究では、SI株のヒドロゲナーゼ遺伝子の同定、RNA抽出・逆転写反応の最適化を行い、遺伝子定量法を確立することとした。

 種々ヒドロゲナーゼ-アミノ酸配列の共通部位よりデザインしたDNA primerを用い、PCR, クローニングを介すことで、[NiFe]-hydrogenase large subunitと予想できる全長と、[NiFe]-hydrogenase small subunitの一部分を獲得することに成功した。

 獲得した遺伝子の定量化がRT反応とReal-Time PCRを用いることで可能となった。さらに純粋培養系での遺伝子発現量のモニタリングを行った結果、水素濃度の上昇に伴い基質消費がストップし微生物活性が低下したが、微生物あたりの16S rRNA保持量は減少しなかった。一方、ヒドロゲナーゼ遺伝子の保持量は減少した。微生物活性の評価を行うにはヒドロゲナーゼ遺伝子の解析が有用であると示唆される結果を得た。

 RNA抽出・逆転写反応の最適化の検討を行った。RNA抽出手法としISOGEN, RNeasy Mini Kit, acid-phenol法の比較を行った。結果、SI株のRNAを安定して抽出し、遺伝子定量を行うにはacid phenolを用いる抽出法が最も適していることが判明した。また、逆転写反応の調査では、反応温度の違いにより反応効率が60%程度変化した。遺伝子定量を行うには逆転写反応条件の検討が定量値を大きく左右し、また、DNA primerのポジションも重要であることが示唆された。

 今後、様々な基質下における遺伝子発現量解析し、本研究の最終目標であった高温嫌気性廃水処理の運転指針を提案することを目標とし研究を進めていく。