桐島佳宏

途上国に適用可能なエネルギー最小型・新規下水処理システムの実機規模実証テスト

原田秀樹、大橋晶良


 途上国では水を媒体とした病気が蔓延し、衛生施設の整備が急務となっている。現在インドでは聖なる川として有名なガンジス川の最大支流、ヤムナ川の浄化計画事業(YAMUNA ACTION PLAN : YAP)が実施されており、19箇所の処理場にUASB(Upflow Anaerobic Sludge Blanket)法が導入されている。しかしUASB法単独では、6割前後の除去率しか達成できず、有機物や病原菌の除去において排出基準を満たさないという問題点があり、UASB処理水の適切な後段処理法が検討されている。

 そこでインド政府環境森林省(MOEF)の河川環境保全局(NRCD)は、長岡技術科学大学が開発したDHS(Downflow Hanging Sponge)プロセスの実規模プラント(最大処理量1000m3/日)を、UASBの後段処理システムとしてハリヤナ州カルナール市に建造した。そこで、本プロセスの処理性能を把握するために、現地に滞在し長期連続モニタリングを実施した。

 その結果、平均で全BOD除去率 95%以上、全COD除去率 91%以上、SS除去率95%以上、アンモニア性窒素除去率81%、ふん便性大腸菌除去率2.3 logという満足すべき処理性能を発揮した。一方、従来システムUASB+FPU(安定化池)では全BOD除去率75%弱、全COD除去率70%弱、SS除去率70%弱、ふん便性大腸菌除去率1.0 log程度であり、アンモニア性窒素は殆ど除去されなかった。以上の結果から本システム(UASB+DHS)の優位性が実証された。

 さらに運転後期、返送率を変化させて運転を行い、返送率が処理水質に与える影響を検討した。返送をストップし、2倍の負荷で処理を行った結果、その水質に悪影響は殆どみられなかったが、アンモニア性窒素とふん便性大腸菌の除去率は、やや低下した。そのときのDHSシステムにおけるBOD容積負荷(スポンジ容積に対して)は最大2.1 kgBOD/m3_dayであったが処理水は安定して良好であった。SS容積負荷も同様に最大4.8 kgSS/m3_dayまで許容できた(高温時期)。そのときのHRT(スポンジ容積に対して)はわずか45 minであった。

 日本で行ったDHS-G3(第3世代型DHS)システムの低温期間での処理性能結果ではBOD容積負荷1〜2 kgBOD/m3_day、SS容積負荷2 kgSS/m3_day前後と判断された。インドでの実規模DHSシステムは高温時期であったことも手伝って、数段優れた結果が得られた。また大腸菌除去率の向上を狙って返送率を逆に増加させたが、効果は殆どみられなかった。

 DHSの保持汚泥量は24〜29 g_SS/L_sponge程度で、これは活性汚泥法と比較すると約10倍程度高い汚泥濃度であった。さらにSRTが55日間と非常に長いため余剰汚泥が殆ど発生せず、その量は下水に含まれる総SS量に対してわずか5%前後であった。以上の優れた結果から本システムの実機建設の日は近い。