林 徹
人工雪崩誘発のための雪中爆破による積雪層の破壊・変形状態について
早川 典生
人工雪崩誘発は、雪崩災害を未然に防ぐための積極的雪崩対策として実施されている。誘発方法の中で、積雪層中に爆薬を仕掛け雪崩を誘発させる方法が広範囲な積雪の処理に有効である。しかし、経験的手法として行われていたために、近年爆破による人工雪崩の発生プロセスについての基礎的実験が行われている。その中で爆破による積雪層の破壊・変形の状況は、実験観測と解析が困難であり充分な解明を果たすに至っていない状況にある。そこで本研究は現地実験から、爆破による積雪層の破壊・変形状況、及び装薬条件による雪崩流下状況について解析し、人工雪崩誘発機構の解明を図った。研究内容は、@基礎的実験として爆破による積雪層への影響について、破壊孔周辺の密度、硬度、せん断強度の爆破前後の変化、及び破壊孔の形成とその周辺の圧縮現象を解析する、A装薬配置を変化させたときの雪崩始動面の形成状態を積雪層の断面観測と硬度測定分布から考察する、B積雪層内の抵抗力と駆動力の比は装薬条件により変化する。そしてこれと共に雪崩流下状況は変化する。これらを比較して雪崩誘発の成否を決める条件を求める、の3点に絞り解析を行った。
@において、破壊孔周辺の爆破前後の密度変化について、破壊孔縁から10cm程度において密度の増加が顕著であった。また、破壊孔下部付近において顕著に密度増加が見られ、更に装薬位置から谷側の方の増加割合が多かった。破壊孔周辺の爆破前後の硬度変化については、密度ほどではないが爆破後に硬度が増加していることが観測された。また、爆破前のせん断強度と爆破断面状況より、爆破による破壊孔周辺の積雪層の破壊状況について、弱層を中心として破壊していることが確認された。破壊孔の形成とその周辺の圧縮現象において、森末(1997)の破壊孔半径算定式が、装薬量、積雪条件に関らず測定値とよく合うことを確認した。そして、爆破による破壊孔周辺の圧縮現象をエネルギー収支の観点から解析した。その結果、実験データを用い、破壊孔縁からの圧縮幅儚を推定したところ、爆破による密度増加が見られた破壊孔縁からの距離に近い値を示した。そして、爆破前密度ρと諸条件の実験式、破壊孔半径算定式を用い、爆薬量と爆破前密度ρから圧縮幅儚を推定する方法を示した。
Aにおいて、雪崩始動面の硬度はその断面内において相対的に大きいことが確認され、雪崩始動面は硬く締まることにより形成されることがわかった。そして、雪崩始動面の形成と流下箇所の破壊は相互に影響していることが断面の観測及び硬度分布により確認された。
Bにおいて、積雪層内の抵抗力に爆破の影響を加え駆動力との比で表せば、流下実験の結果から0.62〜0.65の間に雪崩誘発成否の境界値があると推定された。