土田高義
分布型モデルを用いた長期流出解析の検証
早川典生、 陸旻皎
有効な水利用、水管理のためには、水文循環過程の解明及び予測手法の確立が必要である。しかし、山間部における降水量や降雪量の定量的把握は困難であり、明確な水収支の解明はされていない。それらを推定する手法として分布型融雪流出モデルが挙げられる。分布型融雪流出モデルは流域をメッシュで分割する事により流域の情報を詳細に反映することのできるモデルであり、現在研究が進められている手法である。過去における分布型融雪流出モデルを用いた、降雪融雪期間を対象とした融雪流出解析や短期間の降雨流出による洪水解析事例では、モデル内に用いる流域特性を示すパラメータを対象事例毎に同定し、一様でない結果が得られていた。そのため、長期流出解析に適用可能とされるパラメータは同定されていなかった。また、蒸発散能に対する実蒸発散量が流域土壌水分量に依存することを考慮すると、流域の水収支を推定するには土壌水分量等の継続的な計算が必要であり、それらは短期的な解析によっては再現し難いと考えられる。分布型融雪流出モデルを用いた流域水資源の把握には、降水、降雪融雪、蒸発散現象を含む、長期間の流出解析が必要であり、その結果からパラメータの同定を図らなければならない。
本研究の目的は、分布型融雪流出モデルの長期流出解析に対する適用性の検証と対象とする魚野川上流域における水資源に関する諸量の把握である。モデル実験により入力値の補正係数及びモデルパラメータの同定を行い、分布型融雪流出モデルの長期流出解析への適用性について実証した。モデル実験期間は、1992年11月から1995年10月末までの3年間とした。実験結果を用いて、1987年11月から1998年10月末までの11年間を通した長期流出解析により検証を行った。
分布型融雪流出モデルを用いた降雪融雪現象を含む長期流出解析において良好な結果を得た。また、推定が困難な山岳地帯の降水量、降雪量を含む流域単位の水資源量を定量的に把握する事が可能であることを示した。