氏名 河原井 貴之
論文題名 塑性ひずみ履歴を受けた鋼材の腐食性状
指導教官名 丸山 久一教授
阪神・淡路大震災は、阪神地域の広範囲に大きな被害をもたらした。災害のダメージから元の生活に戻すために大規模な復旧工事が行われ、費用を削減するために屈曲した鉄筋を直線に戻し一度降伏した鋼材をその一部もしくは全部を再使用した。一方で、コンクリート標準示方書[耐震性能照査編] コンクリート構造物が保有すべき耐震性能が規定されている。耐震性能1は、地震時に機能を保持し地震後においても機能が健全である状態である.これに対して、耐震性能2は、地震後に補強が必要なく機能が短時間で回復できる性能と規定されている.一般には,地震時の最大変位が終局変位以下であればこの耐震性能を満足していると考えられる。最大変位は降伏変位よりも大きくなっているためコンクリート中の鋼材は降伏している。したがって比較的大きな地震の後に耐震性能2を満足していた構造物は、補修工事を行なって一度降伏した鋼材を含んだまま継続して使用されることとなる。塑性ひずみ履歴を受けた鋼材の特性について検討必要がある。既往の研究で再使用された鉄筋の力学的な研究報告は多数されている。しかし、腐食性に関する報告はなされていないのが現状である。そこで、本研究では引張試験機により各パラメータの塑性ひずみ履歴を与えた鉄筋を用意して、金属のイオン化を促進させる電解腐食法により腐食を促進させ、塑性ひずみ履歴を受けた鋼材の腐食性状を検討した。
電解腐食実験より、以下の結果が得られた。
(1)塑性ひずみ履歴を受けた鉄筋は、電解腐食法では腐食の差がほとんど無いことがわかった。
(2)電解質溶液の塩化物イオン濃度が多い方が、腐食が促進されること
以上の結果より、本実験の範囲で塑性ひずみ履歴を受けた鋼材の腐食性状は、ひずみを受けていない鋼材とほとんど変化がないことが確認された。
しかし、鉄筋はコンクリート中に供用されるためこの実験方法では、塑性ひずみ履歴を受けた鋼材の腐食性状を解明したとはいえない。よって、コンクリート中の鉄筋腐食を再現できるような実験を行なうことを今後の課題とする。