江藤 健

脱塩工法における塩化物イオン濃度の変化に関する検討

丸山 久一


 近年、脱塩工法がコンクリートの塩害に対する有効な補修工法として注目されている。脱塩工法は電気化学的に塩化物イオンをコンクリート内部から外部へと強制移動させることにより,構造物の性能回復を目的としたものである。RC構造物に対しては幾つかの施工例が報告されているが,PC構造物に対しては鉄筋近傍で発生する水素ガスによる水素脆化が懸念され,見送られ続けてきた。しかし,最近になって断続的な通電を施すことで、PC構造物に対しても脱塩工法が適用できることが明らかとなった。そこで本研究では,PC構造物に対する脱塩工法の適用に関して,断続的通電が脱塩効果へもたらす影響を調べることを目的とした。また,内在塩化物イオン量,通電時の電流密度が脱塩効果に及ぼす影響についても調べた。

 実験は鉄筋コンクリート供試体を作製して通電実験を行い、実験パラメータとして、内在塩化物イオン量は2.5,5.0,10.0kg/m3の3水準を設定し、電流密度はコンクリート表面積に対して1A/m2と2A/m2の2水準を設定した。また積算電流密度は全て一定となるように通電期間を調整した。通電方法は通常の連続通電の他に、4.4日通電、2.6日休止のサイクルで通電する断続通電を設定した。脱塩効果は脱塩率によって評価した。

 通電実験の結果、内在塩化物イオン量5.0,10.0kg/m3の供試体は脱塩率が約30%であったのに対して、2.5kg/m3の供試体は約10%と大きく低下した。このことから、内在塩化物イオン量が少ないコンクリートでは、脱塩率が低くなることが明らかとなった。電流密度1A/m2と2A/m2の供試体では、違いは見られなかった。このことから、電流密度による影響はないことが明らかとなった。また連続通電と断続通電では、連続通電が若干、断続通電を上回った。しかし久田らの既往の研究では、断続通電が連続通電を上回った。久田の研究と本研究では休止期間の設定が異なっており、断続通電は休止期間の設定により脱塩率への影響が異なることが明らかとなった。