小山 和雄

曲げひび割れを有する鉄筋コンクリート中における鉄筋の腐食機構

指導教官：下村 匠　


　本研究は，飛来塩分による鉄筋コンクリート構造物の鋼材腐食において，局所的且つ急激な腐食をもたらすといわれる，マクロセル腐食の影響は実際にどの程度あるのか，検証することを目的として行った。曲げひび割れを有した鉄筋コンクリート供試体の促進暴露試験を行い，コンクリート品質と曲げひび割れ幅が，コンクリート中の全塩化物イオン濃度と鋼材腐食量分布に及ぼす影響を検討した。

　暴露試より明らかになったことを以下に示す。
�@ 塩化物イオン濃度はひび割れ位置では高く，ひび割れ間中央部では低い値を示した。これより，鉄筋コンクリート構造物における曲げひび割れは，鉄筋腐食促進物質がコンクリート内部へ侵入する代表的な経路の一つであることをあらためて確認した。
�A ひび割れ位置における塩化物イオン濃度と，コンクリート品質との相関は強いことから，低水セメント比のコンクリートは塩化物イオンのコンクリート中への侵入を，遮蔽する効果が大きいことが確認できた。
�B 腐食量とコンクリート中の塩化物イオン濃度の比較により，ひび割れ位置における塩化物イオン濃度は，その位置の鉄筋の腐食量に直接影響することがわかった。鉄筋腐食量とコンクリート中の塩化物イオン濃度の間に正の相関が認められた。
�C �@，�A，�Bよりコンクリート中へ鉄筋腐食促進物質の侵入に及ぼす，コンクリート品質とひび割れ幅の影響を確認できた。これらの要素を制御することで，コンクリート中の塩化物イオン濃度を低く抑え，内部鉄筋の腐食量を防ぐことが可能であると考えられる。
以上の実験結果より，本実験ケースの場合マクロセル腐食の影響が現れないことが確認された。
また，コンクリート中の腐食促進物質の二次元移動と，ミクロセル腐食を考慮した数値解析を行い，計算値と本研究における実験値との比較を行った。解析結果においても実験結果と同様の腐食促進物質の移動や，鉄筋腐食においてコンクリートの水セメント比とひび割れ幅の影響に傾向が再現できた。