笠原 裕子

連続繊維シートによるコンクリート構造物の補修補強効果の定量評価

指導教官:下村  匠

本研究は,既設コンクリート構造物の補修補強工法として連続繊維シートをコンクリート構造物の表面に接着するシート接着工法を取り上げ,本工法による補修(物質遮蔽)効果と補強(引張力負担)効果の定量評価を行うこと,およびそれら補修補強効果を数値シミュレーションによるコンクリート構造物の寿命予測システムにおいて考慮可能とすることを目的とした.
従来,シートの物質遮蔽効果を実験結果に基づき決定する方法は確立されていなかった.そこで,本研究では,材料に固有の物性値である拡散係数を用いてシートの物質遮蔽モデルの定式化を行い,従来法におけるシートの物質遮蔽効果の表現上の問題点を解決するとともに,数値解析結果と電圧印加法によるイオン透過試験結果を比較することにより,連続繊維シートと接着樹脂よりなる層の塩化物イオン拡散係数を同定した.同定した拡散係数の値は,従来仮定されていた塗膜等の塩化物イオン拡散係数の値と同程度の値であることを確認した.この拡散係数を用いて,シート補強コンクリート構造物の耐久性に関する数値実験を行い,実構造物に対するシートの耐久性向上効果を検討した.新設時よりシートを接着した場合,シートの欠陥・劣化がなければ数十年間塩化物イオンによる鋼材の腐食が防げること,部分的なシート接着や施工欠陥,使用中のシートの剥離があるとシートの遮蔽効果は大きく損なわれてしまうことが明らかとなった.
シートの補強効果については,内部鋼材が腐食したシート補強鉄筋コンクリート部材の一軸引張試験を行い検討した.コンクリートのテンションスティフニング効果はシート接着下においても機能すること,内部鋼材が腐食するとコンクリートのテンションスティフニング効果は低下するが,シートを接着することにより回復する可能性があることが明らかとなった.また本実験を通じて,予測システムにおいて用いるシートの剥離・付着を含んだ領域の平均的な引張剛性を用いてシートの補強効果を評価する方法の妥当性も確認できた.
最後に,本研究で定量化したシートの補修補強効果を用いて,時間軸上における構造物の力学性能向上効果を検討した.シート接着を行うと曲げ耐力は向上すること,シート接着時期にかかわらずシートを接着すると数十年間シート接着時の耐力が維持されることが明らかとなった.