工藤 義幸

直線状海岸付近における吹送流の流況変動に関する研究

アメリカ合衆国フロリダ半島西岸は、タンパ湾を挟んで直線状の海岸が広く南北に伸びている。この海岸は北アメリカでも有数の広大な大陸棚を有し、その規模は沖方向に200km、沿岸方向に700kmにも及び、大陸棚の海底勾配は4000分の1程度と非常に緩やかである。このフロリダ大陸棚の周辺環境は、南方にFlorida Keys、北方においては大陸がその広い大陸棚を挟みこむようにして迫り出し、一帯は閉鎖域となっている一方で、この海域では季節風が卓越しており、時節によってはこの季節風に駆動されて沿岸方向への流れとともに岸沖方向には循環流が生成され、海岸付近の海水交換が行われていると言われている。一般に、大洋での主要な生物学的生産活動は大陸棚上の海域で行われるとされているため、季節風がこの海域の環境に重要な役割を果たしていることが考えられる。総じて、この海域での風応力に伴う流速や混合などの流れの特性を定量的に把握することは、とりもなおさず生物学的生産活動や水質環境の保全に直結する海洋環境上極めて意義のあることと考えられる。したがって本研究では、フロリダ大陸棚上での吹送流による流速の鉛直分布を定量的に示した上で、季節風による基礎的循環特性を把握することを目的とするものである。
本研究では吹送流の鉛直構造を解くにあたり、2次元・定常・線形・密度一様を仮定した基礎方程式を用い、地形条件は直線海岸を想定したものとした。その際、鉛直渦動粘性係数が一定の条件下での吹送流モデル、いわゆるEkmanの吹送流モデルと、Madsenによって提案された鉛直渦動粘性係数が双一次式で表される吹送流モデルの2種について、それぞれ水深、風向、風速を変化させたうえで両者の流速鉛直分布の比較を行い、相違を考察した。次に双一次モデルについて、北カリフォルニア大陸棚上の実観測データと比較を行い、モデルの実地形適用に対する有用性を検討した。この比較結果よりモデルの実海域への適用が可能であることを確認し、フロリダ半島西岸のCedar Key沖の実地形に双一次モデルを適用し季節風にともなう吹送流流速の鉛直分布を算出した。これにより、夏期には沈降流をともなう岸沖循環流、冬期には湧昇流をともなう岸沖循環流が生成され、季節風によって鉛直循環流の形態が異なることを示した。