上畑 吉紀

模型実験を用いた地中音による地すべり予測に関する基礎研究

指導教官 宮木 康幸

現在、地すべりや崩壊の危険性がある斜面の監視には、様々なシステムが利用されており、わが建設設計研究室でもCCDカメラを用いた斜面監視システムを開発している。しかし、このシステムの短所として、監視の対象が斜面の地表のみであることが挙げられる。
そこで、斜面監視の新たな手法として、斜面の移動が地表で観測される前の段階で、地中の土構造が変動するときの地中音から地すべりを予測できないかとの考えに至り、一昨年度から、音響的手法を用いた斜面監視システムが考案された。
一般的に、地すべりが発生する前には、地下水の流れや土構造の変動による地中音の微少変化があると考えられる。本研究は振動センサを用いて、これらの地中音の変化を前兆現象として捉え、地すべりを予測するための基礎的な検討を行うものである。
昨年度は、地すべり現場での計測が行われたが、現場からのデータでは、測定された地中音が前兆現象によるものかどうかの特定ができなかった。そのため、これを特定するには、前兆現象とこれが発する地中音との関係を明らかにしなければならない。その方法として、今年度は模型を用いた実験を行うことにした。
地すべりとは、粘土が広く分布するような限られた地域において、降雨や融雪などによる地下水の影響を受けることによって起こり得る現象である。これを再現するため、模型には砂と粘土を敷き詰め、境界付近に擬似的に水を流す。本実験では、この地下水の流れを前兆現象として考え、これが発する低周波音を測定する。
第1段階として、水の有無によって、音の大きさや周波数成分に変化が現れるか実験を行った。その結果、水の浸透または排水によって卓越周波数に経時的な変化があることが分かった。第2段階として、模型内を流れる流速を変化させた場合、その特徴を捉えられるか実験を行った。地下水の流速は、通常状態では最大で0.01cm/s程度であるが、一方で、地すべりが発生し得るときの流速は未知である。したがって、模型内に一定の流速で水を流す際、本実験では通常の3〜5倍程度であると仮定し、この範囲で流速を変化させた。その結果、それぞれの流速に固有な周波数の特定はできなかったものの、卓越する周波数に変化が現れることが分かった。また、その変化は水の浸透と同様に100Hz以下であった。
これらの結果から、地下水の流れによる音の変化は、AE(アコースティック・エミッション)と呼ばれる岩盤崩落の予測技術において着目される高い周波数領域とは異なり、比較的低い周波数帯であることが分かった。