氏名   高橋宏子

論文題目 生活適合型からみたデザイン評価法 -キッチンリフォームを想定して-

指導教官 中村和男

住宅をデザインする場合,使用する個人のライフスタイルや行動様式に配慮した設計が期待されている.しかし,住宅のデザインに対してある個人の生活形態が適合している度合いを表す評価手法や指標はいまだ確立されていない.本研究は対象となる個々の生活形態を具体的にデザインされた住宅に適用したときの出現行動に基づいて住宅デザインを人間特性,生活特性との適合性に基づいて評価するための評価指標を提案することを目的とした.特にキッチンのリフォームを具体的な事例として取り上げ,キッチン空間における個々の調理行動を詳細に観察し,その特徴をさまざまな視点から分析した.さらに,観察結果をもとに調理行動モデルを作りキッチンのデザインを評価する手法を提案した.
空間デザイン評価とは,ある空間が個々の生活者の特性や行動に適合しているかどうかを評価することである.空間を「調理行動を行う場所で,そのための設備機器や収納,またそれらを置く空間」とし,それらの空間的配置が生活者に適合しているかを評価する.ここでは,「適合性」を人間特性への適合と生活特性への適合の2つの要因からなるものと考え,それぞれを評価指標の類と考えた.生活特性理解のための項目として,各作業に要した時間に関する特性,調理作業の推移に関する特性,作業滞在位置の推移に関する特性の3項目を提案した.デザイン評価指標としては,調理作業時間,移動距離,運搬負荷,移動回数(頻度),作業姿勢,体の向きの変化量,動作空間の適合性の7つの評価指標を提案した.

 観察実験として,2名の被験者に2つのキッチンにおいてそれぞれ2つの調理メニューについて調理行動を行ってもらい,VTRにより調理行動を
撮影した.それぞれの被験者の調理行動の分析から,生活特性の理解,デザイン評価指標により,空間デザインの評価を行った.今回の被験者の生活特性は(1)食材・道具などをまとめて準備するタイプ,(2)必要になった時に取りに行くタイプとなり,同じキッチンにおいて調理を行っても作業の時間配分や移動頻度が明確に異なった.また7つのデザイン評価指標からの空間デザインの評価を行った.今回の被験者では,調理を行った2つのキッチンの配置を多面的な評価指標により評価することができた.
さらに,観察により得られた被験者の調理行動パターンを基本行動モデルとし,仮想的にデザインされたキッチンにモデル行動を適用して各評価指標を計算する手法を提案した.そして実際のキッチンとシンク,コンロ,調理台の配置を変化させた仮想キッチンをもとに評価指標を計算し,それぞれの被験者においてL型では移動距離と運搬負荷はI型より少なく,向きの変化ではL型が大きくなることが分かった.
これらの生活特性理解項目とデザイン評価指標を用いてあらかじめ調理行動を評価しておくことにより,生活者に仮想のキッチンでも調理行動がどのようになるか提示をすることができ,キッチンリフォームを考える際により個々の生活者に適合した空間配置を検討できるものと考える.