前川聖子 

平成14年7月台風6号水害時における住民の郡山市洪水ハザードマップの活用実態

指導教官 松本昌二 及川康

福島県郡山市における平成14年7月台風6号水害による洪水被害は,規模としては,郡山市における過去の水害に比べてさほど特記するほどのものではなかったが,いくつかの点で特徴的な性格を有している.郡山市では,平成10年に郡山市洪水ハザードマップの作成・公表を行っており,その後の平成10年8月末水害の経験を教訓とし,平成12年3月に改訂版郡山市洪水ハザードマップの作成・公表を行った.今回の水害は,この改訂版洪水ハザードマップが実際の水害時に活用されたはじめての水害である.そこで本研究では,この改訂版ハザードマップの活用状況と住民評価に着目し,今回の平成14年7月台風6号水害に関する住民意識調査の結果に基づいて,その実態を把握することを目的とする.
今回取り上げた改訂版郡山市洪水ハザードマップは以下のようなポイントがある.まず,避難勧告や避難指示の前段階として「避難準備」を明確化した事.次に,「避難時の車利用を部分的に容認」した事である.
住民の意識調査から得られた主な結果を以下に示す.まず,この水害に際して改訂版ハザードマップの利用状況としては,回答者の半数近くが改訂版ハザードマップを利用している.利用した回答者については「参考になった」とする回答が多くを占めている.また,洪水ハザードマップを見た回答者の避難率が高かった.これより,住民にとってこの改訂版ハザードマップは概ね良好な評価が得られているものと思われる.また,本研究では地域の水害危険度情報を公表する方法としての,洪水ハザードマップの意味についても考察を行った.「軽微な浸水被害程度であるなら仕方ない」との意向を示す回答者が,特に河川行政に対して,信頼感や誠実さを感じている回答者層を中心として多く見うけられた.回答者がこのように河川行政に対する信頼感や誠実さを感じる要因のひとつとしては,「水害危険度情報を行政が積極的に提供する努力を感じる」という住民認識をもつことが挙げられた.
本研究における検討は,ひとつの水害時を事例とした断片的な分析にとどまるものではあるが,ここで把握されたいくつかの分析結果は,今後においてさらに多くの自治体で行われていくものと考えられる,洪水ハザードマップの作成と公表に際して,ある一定の方向性を示唆するものと考えられる.