田中 大

水害時における周辺状況の変化と住民の危機意識の変遷に関する研究

松本昌二,及川 康


水害時における住民の対応行動は、河川情報や避難情報など、入手した種々の情報を主な判断材料とし
て行われるものと考えられる。しかし、情報の取得に際しては「判断」というものが介在し、その受け
止め方は個人によって異なっていると考えられる。このような「判断」のありようは、住民個々の個人
属性の差異のみならず、その時点の状況が平常時であるのか災害時であるのかといった住民の認識状態、
すなわち、「状況の定義」と呼ばれるものによって大きく影響を受けると考えられている。

以上のような認識のもと、本研究では、災害時における住民の情報入手状況とその各時点での危機意識
(状況の定義)および対応行動との関連分析を目的とし、平成14年7月台風6号接近時における郡山
市民を事例に、その直後に実施した住民アンケート調査に基づき分析を行った。

まず、災害時における住民の危機意識・対応行動の変遷状況を調べ、避難情報の発令直前にも約8割の
回答者が何らかの災害意識を持っていることや、広い範囲で情報収集行動がとられていることなどを把
握した。ここで、情報収集行動とは、災害発生の可能性を明確に判断できるだけの情報が不足している
場合に、その判断に十分なだけの情報を獲得しようとする際に行われる行動と考えられる。そこで危機
意識と対応行動についてクロス集計を行い、災害を何ら意識していない状態の住民は対応行動を取らな
いことや、平常時とも災害時ともはっきりと判断できない意識状態の場合は情報収集行動が多く取られ
ることなど、住民の対応行動が危機意識によって大きく規定されている様子を把握することができた。

そこでさらに種々の情報の入手状況と危機意識との関連を詳細に分析するが、危機意識の形成は情報の
入手状況のみならず事前の知識などが影響していると考えられる。本研究では、そのような事前の知識
のひとつとして、災害発生前の時点における自宅の潜在的浸水可能性認識に着目し、その認識の程度に
基づいて回答者を3つに分類した上でロジスティック回帰分析を行った。その結果によると、種々の情
報の取得は危機意識の醸成に対して正の影響をもたらしていること、またその反応の大小は潜在的浸水
可能性認識に基づくグループ分類によって異なる傾向にあることが把握された。

以上の分析より、時々刻々と進展する状況や情報と連動して住民の危機意識(状況の定義)は変遷し、
そのような中で対応行動を行っていること、またその影響構造は災害前の時点における知識(例えば自
宅の潜在的浸水可能性認識)のありようによって異なる様子を把握することができた。