山井 正樹

通勤バス交通の需要分析と路線網計画

松本 昌二

急速なモータリゼーションの発展に伴い,交通渋滞や環境面などの様々な問題が取り上げられている.しかし,予算面の制約などからハード的施策の限界性が議論なされている.そこで,交通需要の削減,分散化を促すことで自動車交通を円滑化させるソフト的施策として,交通需要マネジメント(TDM:Transportation Demand Management)が,全国各地で導入されている.本研究では,TDM施策の1つであるバス交通へのモーダルシフトに着目する.
そこで,新潟県三条市をケーススタディーとして,地方都市における通勤者と企業,バス事業者,行政が協力して,通勤バスを運行した場合における需要分析と,それに則した通勤バス路線網計画の検討を目的とする.

 まず,需要分析については,三条市内の企業で働く従業員に対して公共交通の利用に関するアンケート調査を行った.この調査では,現存しない交通手段である通勤バスについて,「もし,通勤バスを運行した際にどのくらいの需要が見込めるのか」,ということを定量的に分析するため,仮想状況下における選択意識であるSPデータ(Stated Preference Data)を収集した.このSPデータを用いて,Binary Logit Modelと,Ordered Logit Modelの2つの手法により,交通手段選択モデルの構築を行った.その結果,Ordered Logit Modelでは,うまく再現性を表現できない結果となったため,より再現性における信頼度の高い,Binary Logit Modelによって構築された交通手段選択モデルを用いて,通勤バス路線網計画の比較検討を行った.
通勤バス路線網計画は,自動車通勤者には,ガソリン代等は企業からの通勤手当が支給されるが,企業内に設置された駐車場を利用するのに,個人負担による駐車料金が課され,通勤バス利用者には,バス運賃は通勤手当で賄われるため個人負担がない,という条件を基に行った.この条件下で,通勤者の通勤トリップを基に,4つのバス路線網を計画した.そして,各路線網において,自動車通勤者に課す駐車料金と,通勤バスの運行頻度を変化させて,通勤バスの需要がどのように変化するのか,という分析を行った.また,計画したバス路線網が実際に運行可能かどうかを,運行費用の採算性,また各路線における乗車密度という視点から評価を行った.その結果,三条市において通勤バスを運行する場合,隣接市町村からの乗入れと,郊外からの通勤者を考慮した広域的な通勤バス路線網が比較的有効であり,また,その路線網では,通勤バスの運行頻度は20分/本程度が採算性も取れ,通勤バスの需要にも応えることができるという結果が得られた.