小林聡
東海豪雨災害に対する住民の災害意識と対応行動の要因分析

 

 松本昌二 及川康

2000年9月に東海地方で発生した東海豪雨災害は,おおむね500年に一度の豪雨とも言われ,中部地方を中心とした各地で甚大な被害が生じた.その社会的影響は,災害時はもとより災害後の被災者生活においても多大なものであり,その影響規模ははかりしれず,豪雨災害に対する危機管理体制のあり方について様々な課題や教訓を含むものとなった.そこで本研究では,東海豪雨災害直後に名古屋市内(西区,天白区,北区)とその近郊の西枇杷島町と新川町において実施された住民実態調査を基にして,豪雨災害がもたらした住民の避難等の対応行動,水害に対する危機意識,さらには災害発生後における住民生活に対して,東海豪雨災害がもたらした影響についてその構造分析を行うことを目的とする.
東海豪雨災害では,水害が深夜の時間帯に進行したことや,避難勧告がぎりぎりの時間帯まで発令されなかったことなどにより,住民にとっては余裕を持って状況判断をし対応行動を行うだけの十分な条件が整っていたとは言い難い状況であった.このような状況下で時々刻々と変化する周辺状況の変化と住民の対応行動との関係について非集計モデルより分析を行った結果,災害情報を入手出来たか否か,さらにはその入手タイミングの違いにより,住民の対応行動の実施有無や実施時期が大きく異なること,さらには,平時からの水害に対する危機認識が大きな影響を持つことが明らかとなった.この点から,洪水被害が及ぶことが予想される地域の住民に対しては,まず,種々の災害情報を迅速かつ正確に伝達できる環境を整備することが重要であり,それと共に,種々の判断材料が散在するなかで住民がそれをどのように受け止め解釈するかが重要な問題となると考えられる.
また,東海豪雨災害後の被災者生活に着目すると,被災後の当面の課題として日常生活の再建が急務であり,被災住民の中には,その場所での再建を断念し他地域への移転を考える世帯も少なからず見受けられた.このような被災住民の移転意向の形成要因を共分散構造分析により分析した結果,その要因として,浸水被害が甚大なためにその場所での生活再建を断念する側面と,リスク回避手段として移転を選択する側面という2つの側面が存在することがわかった.住民の立場に立つならば,前者の側面を消極的に移転を選択する側面,後者を積極的に移転を選択する側面,ということができると考えられる.