01581984 佐々木 正寿

タングステンブロンズ電極を用いた全固体型薄膜素子の擬似キャパシタ容量

指導教官 佐藤一則


 燃料電池自動車(FCEV)の駆動をアシスト(急速放電)したり、減速時のエネルギーを電気に変換(急速充電)には、ウルトラキャパシタ(電気二重層キャパシタ)が使用されている。本研究では、液体電解質と貴金属電極を組み合わせた従来型の擬似キャパシタに代わる全固体型擬似キャパシタ開発を目的として、タングステン酸化物とリチウムイオン伝導ガラス電解質を組み合わせた薄膜キャパシタ素子に着目した。これらの金属酸化物電極と固体電解質を組み合わせることで、安全性・信頼性・コストパフォーマンスが向上し、さらに薄膜化することで高いパワー密度とエネルギー密度が実現できる。作製した薄膜キャパシタ素子の評価は、従来の電気化学理論では十分に明らかにされていない固体電解質と固体電極との界面における電荷移行反応解析の一手法としてサイクリックボルタンメトリー(CV)法を用いた。本研究では、リチウムイオンの挿入(インターカレーション)が可能なWO3薄膜電極に着目し、その電極作製法として従来の反応性スパッタリング法ではなく、金属アルコキシドの一種であるタングステンペンタエトキサイド(W(C2H5O)5)を出発原料とするゾルゲル法を用いた。本ゾルゲル法において、作製条件(加熱温度、下地基板の影響、溶液濃度、および添加成分等)による生成WO3膜の微細構造への影響を検討した。さらにPt集電極膜に対しては加熱処理による電極の表面積の増大が作製擬似キャパシタセルのCV特性に与える影響を検討した。以上の検討に基づき、新規エネルギー貯蔵素子としての全固体型擬似キャパシタの性能を支配する材料組織的要因を明らかにした。Pt集電極膜を大気雰囲気下で1273 K, 5 h焼成すると、(111)結晶面の優先配向を示す原子配列が起こり、膜表面積の増大をもたらすことを見出した。本ゾルゲル法で作製したアモルファス構造のWO3電極を、焼成配向型Pt集電極と組み合わせた場合、RuO2電極とH2SO4 系液体電解質を使用した従来の擬似キャパシタのCV曲線の形状へ近づき、キャパシタ容量の増大が認められた。本ゾルゲル法によって作製したアモルファス型WO3電極は、600 ℃, 5 h焼成することでMonoclinicのWO3結晶相に変態した。しかしながら、本ゾルゲル法により作製したWO3電極は下地Pt膜層との結合が弱く、連続薄膜の形成が困難であっため電極反応による疑似容量発現が抑制された。従って、本研究では、WO3電極の作製法やその形状をLiイオン拡散に有利にし、より高いイオン伝導度を持つ薄膜電解質と組み合わせることで、より高いエネルギー密度、パワー密度の実現が可能となることを示した。