氏名:神山 直明

論文題目:塩化物含有ガラスの化学的耐久性

指導教官:松下 和正


近年、最終処分場の不足が深刻化しており、焼却残渣の減容化・安定化に優れた溶融処理が注目されている。
また、得られたスラグを再資源化することが望まれている。
この溶融処理を還元雰囲気下で行うと、都市ごみより由来する塩化物を含有したスラグが得られる。
しかし、塩化物を含有したスラグの研究はほとんど行われておらず、塩化物がガラスの構造や諸物性に与える影響は明らかではない。
そこで本研究では、スラグを最終処分場へ埋め立てる場合や再利用する際に重要となる、化学的耐久性に塩化物が与える影響を研究することを目的とした。
化学試薬から塩化物含有CaO−Al2O3−SiO2ガラスを作製し、そのガラスの諸物性及び化学的耐久性を測定した。
還元雰囲気下で溶融することにより、ガラス中に塩素を最大7mol%含有することができた。
また、塩素を10mol%含有したガラスは表面に塩化物の相が析出することを確認した。
ガラス中の塩化物含有量が増加すると、ガラス転移温度(Tg)及び密度が低下することがわかった。
これはガラスの網目構造内にイオン半径の大きい塩素が入り込むことでSi−O−Si結合の角度が変化し、網目構造が広がったためと考えられる。
また、ビッカース硬さ試験機によってガラスの硬度を測定した結果、塩化物を3〜5mol%含有したときの硬度がもっとも高く、相が析出するとガラスの硬度は低くなることがわかった。
塩化物を含有するとガラス中の架橋酸素数が増加し、単結合強度の大きいSi−O結合の増加によって硬度は高くなるが、密度の低下や網目の変形によってこのような結果になったと考えられる。
ガラスの化学的耐久性を粉末法で測定した結果、塩化物含有量に対して各元素の溶出濃度に変化が見られた。
これはCaで顕著に見られ、ビッカース硬度と同様に塩化物を3〜5mol%含有したときの溶出濃度が最も低くなった。
この結果から、ビッカース硬度と耐久性は密接に関係しており、塩化物含有による架橋酸素数の増加とガラス網目構造の変形が耐久性に作用していると考えられる。
また、塩化物含有ガラスに鉛を含有させ溶出試験を行った結果、塩化物含有量に関係なく溶出濃度は少なくほぼ一定であった。
また、本研究のガラスは窓ガラスに近い組成のガラスと同程度の耐久性であった。
従って、スラグ中に塩化物を含有させても高い耐久性を有しており、実用化に問題はないことが明らかとなった。