山名 美穂

揮発性有機化合物(VOCs)のヘッドスペースガスクロマトグラフ法を用いた
単成分極低濃度吸着平衡および二成分吸着平衡の測定と解析

     指導教官 小松俊哉 藤田昌一 姫野修司


 近年、各種産業等から排出される揮発性有機化合物(VOCs)が大気中に存在し、その低濃度長期暴露による健康障害が懸念されている。ベンゼン等は大気環境基準にも設定され、今後ますます排ガス処理を行う施設の数、処理レベルの向上が考えられる。このようなVOCs除去には活性炭吸着技術が使用されているが、吸着装置の設計の際必要となってくる低濃度VOCsの吸着等温線においては既存の圧力計を用いて濃度を測定する方法では困難である事、また実際には多種多様なVOCsが混入している事等は非常に問題となってくるにもかかわらず、これらに対する研究はあまり行われていない。そこで、本研究では低濃度VOCsの活性炭吸着平衡測定法の提案、各VOCsの吸着特性の把握、多成分吸着平衡理論を用いての本方法による測定値の妥当性の確認を行った。

 本研究ではヘッドスペースガスグロマトグラフ法(HS-GC法)を吸着平衡に用いた。本方法の利点は、極低濃度VOCsの平衡吸着量を容易に測定可能、気相測定機器(GC-FID,ECD等)を選択する事で様々なVOCsの測定可能、GC等を使用するため容易に多成分系に拡張できる事等が挙げられる。具体的には活性炭1gを詰めたバイアル瓶にVOCsを2μL〜4μL添加し、吸着平衡に達したら気相測定機器で測定を行った。使用活性炭は粒状活性炭(BPL)、繊維状活性炭(A10)、使用VOCsは毒性の高いものを中心にベンゼン、ジクロロメタン、トリクロロエチレン、四塩化炭素、1,1,1-トリクロロエタン、トルエン、アセトン、メタノールである。

 単成分系における解析には一般的に用いられるToth式とDubinin-Radushkevich式を用いた。吸着等温線は幅広い濃度範囲でToth式と一致し、HS-GC法を用いると10-7kPaまでの極低濃度領域での測定が可能であることを示した。これは、これまで用いられてきた圧力計と比較すると約10万分の1倍低濃度領域である。さらに、VOCsによって吸着量は異なり、VOCsの気相濃度がppbレベルになると吸着キャパシティが1%以下と大きく低下することも明らかとなった。
以上によりHS-GC法を用いれば、今まで困難であった極低濃度VOCsの吸着等温線の測定が可能となり、極低濃度領域における吸着特性の把握が可能となる事が明らかになった。
次にHS-GC法を2成分系に拡張し、測定を行った。使用活性炭はBPL、使用VOCsはジクロロメタン‐トリクロロエチレン、トルエン‐ベンゼン、アセトン‐ベンゼンである。多成分系吸着平衡理論として一般的に用いられるIAS理論を用いた。そこで理論値と実験値の比較を行ったところ、ジクロロメタン‐トリクロロエチレン、トルエン‐ベンゼンの2成分系では理論値と実験値は非常によく一致した。これは両物質ともにほとんど極性がなく、吸着平衡時の吸着相内の状態が理想溶液とみなせたのでIAS理論が適用範囲であったものと考えられる。しかし、アセトンのような極性のある物質は理想溶液とみなせないので、IAS理論による予測は困難である事も明かになった。
よって、HS-GC法を用いた多成分吸着平衡においても容易に吸着量を求めることが可能であることが示された。更に、極性など類似した性質のVOCsの多成分吸着平衡にはIAS理論を用いれば任意の組成、濃度における吸着量の予測が可能であることが示された。