渡辺 勇

生ごみと下水汚泥の同時嫌気性消化システムのLCAによる評価

指導教官 小松 俊哉、藤田 昌一、姫野 修司


我が国では、生ごみをはじめとする有機性廃棄物のほとんどが焼却処理されてきたが、焼却にともなうダイオキシン発生や最終処分場の逼迫等の問題から、新しいリサイクルシステムが摸索されている。さらに、最近になってバイオマスの利活用の推進をはかる法整備も進められ、生ごみ処理への期待が高まっている。その中でも、メタン発酵処理はエネルギー回収、発酵物肥料価値の向上が高く評価され、循環型処理技術として注目されている。しかし、メタン発酵処理施設はまだ普及率が低いためにコストが焼却施設に比べ割高であり、単独では栄養バランスの問題でメタン発酵が困難である。また、下水処理施設は下水道の普及率の上昇とともに増加しており、全国各地に存在する。そこで、生ごみを既存の下水処理施設で下水汚泥と同時嫌気性消化するシステムが有効である。そして、そのシステムを評価するツールとしてLCA手法が有効である。本研究では、同時嫌気性消化システムをLCA手法によって、コストおよび環境負荷の面から定量化し、さらに重み付け手法(DtT法)を用いて評価を行った。

本研究では人口20万人の都市を想定し、5種類(@焼却、A同時嫌気性消化(生ごみ分別回収率30%)+ 消化汚泥焼却、B同時嫌気性消化(生ごみ分別回収率80%)+ 消化汚泥焼却、C同時嫌気性消化(生ごみ分別回収率30%)+ 消化汚泥堆肥化、D同時嫌気性消化(生ごみ分別回収率80%)+ 消化汚泥堆肥化)のシナリオを設定して、ごみの収集から処理施設の建設、運転、最終処分までを評価範囲としてLCAを行った。評価項目をコスト、エネルギー消費量、地球温暖化物質(CO2、CH4)排出量、酸性化物質(SOX、NOX)排出量、埋立地消費量、有害物質(ダイオキシン類、重金属類)排出量として、特性化および現状値と目標値の乖離で環境影響領域間の重み付けをするDtT(Distance to Target)法による重み付けを試みた。

 各プロセスの評価項目の入出力を調査したインベントリー分析結果では、コストでは、全シナリオで大差はなかった。生ごみ分別回収率30%のシナリオでは、@と比べ、A、CともにSOX排出量で劣っているが、エネルギー消費量、二酸化炭素排出量、NOX排出量はほぼ同等であった。生ごみ分別回収率80%では、@に比べ、B、DともにSOX排出量については劣っているが、エネルギー消費量、NOX排出量でほぼ同等であり、二酸化炭素排出量は優れていた。埋立地消費量については焼却灰量を削減できるC、Dが優れていた。有害物質排出量については、バイオガス発電による電力代替効果と、焼却量の減少により、Dが特に優れていた。

さらに、インベントリー分析結果を特性化し、DtT法により、統合評価を試みた結果、埋立地消費の影響が地球温暖化や酸性化などの他の環境影響に比べて高く、埋立量を削減できる消化汚泥を堆肥化するシナリオが優れているという結果を得た。したがって、同時嫌気性消化システムは、生ごみの高い分別回収率が得られ、消化汚泥を堆肥化した場合、特に環境負荷削減に効果的である。