山口 司

一槽間欠曝気式膜分離活性汚泥法においてオンライン薬品洗浄がリアクター性能に及ぼす影響

指導教官  小松俊哉、藤田昌一、姫野修司

膜分離活性汚泥法は閉鎖性水域における富栄養化の一因である窒素の除去が可能な高効率処理法であり、昨年、本研究室において一槽間欠曝気式リアクターを用いて高い窒素除去率を得たが、長期運転での膜目詰まりによる膜透過流束低下は膜分離活性汚泥法の課題となっている。そこで本研究では、膜を浸漬させたまま薬品を注入させて膜目詰まりを除去するオンライン洗浄に着目して連続実験を行った。使用薬品については予備実験の結果から、有機物除去には次亜塩素酸ナトリウムまたは水酸化ナトリウムを、無機物除去にはシュウ酸を用いることとした。90日間の連続実験ではMLSSを5000 mg/Lに調整したRUN1、RUN2およびMLSSを20000 mg/Lに調整した高MLSS系のRUN3、RUN4を行い、薬品洗浄を行わないControlについてもそれぞれControl-L、Control-Hとして行った。
基質にはCSL(コーンスティープリカー)をTOC濃度:250 mg/L、TN濃度:65 mg/Lに調整したものを用いた。運転期間中は1日1回スポンジ洗浄を行い、さらに操作圧力を調整して所定のFLUXを得るようにした。スポンジ洗浄後の膜間差圧が20kPa以上に達した時点でオンライン薬品洗浄を行い、薬品洗浄効果および薬品をリアクター内に直接暴露することによる生物活性への影響について検討した。
1.薬品洗浄効果

 RUN1、RUN3では次亜塩素酸ナトリウム0.5 %+シュウ酸0.1 %を用い、RUN2、RUN4では水酸化ナトリウム0.04 %+シュウ酸0.1 %を用いて薬品洗浄を行った。また、薬品浸漬法による洗浄効果との比較を行い、オンライン薬品洗浄の有用性を検討した。

 運転期間中に行った薬品洗浄では、すべての系において、膜間差圧は洗浄前の20 kPaから運転開始時と同等まで回復することができ、平均FLUXについても安定した運転を行うことができた。また、高MLSS系において、低MLSSと比べ、膜間差圧を低く運転することができ、薬品洗浄による膜透過性能の回復も高く、膜間差圧についても、低MLSS系では洗浄後40日で20 kPaに達したのに対し、高MLSS系では洗浄後10 kPa程度で運転することができ、膜間差圧の上昇も緩やかであった。
以上のことより、オンライン薬品洗浄は薬品浸漬法と同等の膜透過性能の回復効果があり、膜を浸漬させたまま洗浄することで作業効率があがり、メンテナンスの簡略化につながることから、有用性が高いことが確認できた。また、高MLSS系による運転が膜透過性能を高く安定させるうえで、有利であることがわかった。また、膜目詰まりの原因と考えられている菌体外ポリマー(ECP)の含有量については、すべての系においてControlでは経過日数とともに増加するのに対し、薬品洗浄系では洗浄以降、ECP含有量が減少し、低濃度で推移した。このことから薬品洗浄が汚泥の粘性低下も引き起こし、FLUX回復に寄与することが明らかとなった。

2.生物活性への影響

 連続実験中(90日間)における窒素除去率の平均値は、低MLSS系では74.0〜75.3 %、高MLSS系では75.0〜77.0 %であった。また、有機物除去率の平均値は、すべての系で90 %以上であった。
予備実験により得られた硝化・脱窒速度に影響を及ぼす濃度は時亜塩素酸ナトリウムおよび水酸化ナトリウムで1 g/kg-MLSS、シュウ酸で4 g/kg-MLSSであった。また、酸素利用速度に影響を及ぼす濃度は次亜塩素酸ナトリウムおよびシュウ酸で3 g/kg-MLSS、水酸化ナトリウムでは実験範囲(0〜30 g/kg-MLSS)では影響は見られなかった。オンライン薬品洗浄ではこの濃度以下で行ったため、窒素除去性能および有機物除去性能は薬品による阻害を受けることなく、90日間の運転期間中は安定した処理水質を得ることができた。また、薬品洗浄直後から24時間後までの経時変化においても影響は見られず、短期的にも長期的にも生物活性への影響は見られなかった。