原 浩之

鉄粉と嫌気性集積培養菌を併用した塩化エチレン類汚染土壌浄化の効率化

  
指導教官  小松 俊哉、藤田 昌一、姫野 修司


 PCE等の塩化エチレン類による汚染土壌の浄化手法として,微生物の浄化能力を利用したバイオレメディエーション及び、鉄粉による化学的還元分解を用いた方法が注目されている。これらは低コスト、環境負荷が小さい等の点から期待されており、本研究の保持する嫌気性集積培養菌はPCE等の塩化エチレン類を、鉄粉と水との反応(Fe+2H2O→Fe2++2OH−+H2)により発生した水素を電子供与体として無害なエチレンにまで分解可能であることが知見として得られている。こうした併用により鉄粉添加量の削減、pHの適正化、有機物の添加が不必要といった効率化を図れる可能性がある。本研究では、鉄粉と嫌気性集積培養菌を併用した塩化エチレン類汚染土壌の浄化実験を種々の諸因子((1)水素発生(2)温度、(3)汚染濃度、(4)菌体量、(5)鉄粉粒径、(6)併用系の効果持続性(7)土壌)について行うと共に、浄化に効率的な条件等について検討した。

 全ての実験方法はほぼ同様に、68 mlバイアルに集積培養液40 ml、土壌20 g、鉄粉、PCE又はTCEを所定量投与し嫌気状態とした上で静置後、FID、TCD等を使用して測定を行った。実験試料は、これまで使用した2種類の土壌(砂質土:pH 7.2、粘性土:pH 5.3)に4種類の土壌(砂質土A:pH 6.5、赤色土@:pH 6.9、赤色土A:pH 5.1、黒ボク土:pH 4.9)を加え合計6種類の土壌を使用した。

 (1)〜(6)の検討より土壌添加による水素発生の増加((1)より)、低温度・高濃度汚染・低菌体量条件下での併用系の効果((2)〜(4)より)、併用系における鉄粉粒系の影響は小さい((5))、初期条件での併用系の浄化効果は約40day((6)より)であることが確認された。また全ての系において鉄粉単独系を上回る併用系の効果が確認された。回収量を基準とし、ETY・ETAの比で示した各土壌系の転換率とpHの結果とを比較すると、pH値が約7.5〜8.0付近にある土壌系ほど転換率が高くなることが確認された。このことは土壌によらず、pHが集積培養菌の至適pHで推移していれば併用系を用いた浄化の効率化を示唆する結果であった。これに対し鉄粉量を増やすことによってpHの上昇は図れるが、必ずしも効率的ではない。
そこで研究の方向性を広げるべくスラリー状鉄粉に着目した。これは鉄微粒子を含有する水系懸濁液からなる土壌浄化剤で、高アルカリ(pH12)、液体状であるといった特徴を持つ。そのスラリー状鉄粉を用いて浄化実験を行った結果、粘性土、黒ボク土の系でそれぞれ鉄粉濃度2g/kg、4g/kg(粉体状鉄粉の場合、効率的な転換に必要な鉄粉量はそれぞれ8g/kg、16g/kg)でpHは7.5付近を示し効率的な浄化が進行した。結果的にエレクトロンドナーの供給源として必要な鉄粉添加量(2〜4g/kg)を基準とした場合、砂質土のようなpHが比較的中性域にある土壌には粉体状鉄粉で、黒ボク土のような酸性域を示す土壌にはスラリー状鉄粉が有効であることが確認された。
以上の結果より、ETY・ETAまでの転換に必要な水素量存在下で、土壌の性質によらずpHが集積培養菌の至適活性範囲に近づくことで効率的に転換が進行することが確認された。