豊田 大賀

吸着剤を用いた下水汚泥消化ガスの効率的な貯蔵・回収技術の開発

指導教官 小松 俊哉、藤田 昌一、姫野 修司

近年、バイオマスの有効利用による環境負荷の低減、循環型社会形成ため未利用のバイオマスの利用促進が必要である。下水処理場においても下水汚泥消化工程(嫌気性消化)において生物由来の有機資源である消化ガスが発生し、このバイオマスである消化ガスの完全有効利用がバイオマス利用促進に貢献することができるものと考えられる。
汚泥消化工程で発生するガスは「消化ガス」と呼ばれ、その主成分はメタン65%、二酸化炭素35%、その他、水分、硫化水素、有機酸などの微量成分を含んでおり、全国の消化設備を有する下水処理場より年間約2億5000万m3発生している。現在、下水処理場で生成した消化ガスはガスホルダーにゲージ圧で2〜5気圧にて圧縮して貯蔵され、ガスボイラー加温用燃料や処理場内発電用燃料に利用されているが、その利用率は7割程度でしかなく残りの3割は焼却廃棄されている。また、現在下水処理場が全国に約1200箇所あるのに対し、汚泥消化工程を導入している処理場は約300箇所程度で留まったまま伸び悩んでおり、これらの一つの大きな原因は消化ガスの貯蔵効率が悪く、有効利用に繋がらないことが考えられる。
そこで本研究では、既存の方法よりも貯蔵量を増加できる新しい貯蔵技術として「吸着貯蔵法」について着目した。本研究では消化ガスの吸着貯蔵に適した吸着剤の選定、消化ガス貯蔵における貯蔵量の評価および消化ガス中の不純物の影響把握を行い、今だ明らかとされていない運転維持特性の把握を行うことを目的とした。
エネルギーとして利用できるメタンについてメタン吸着能に適していると考えられる10種類の活性炭およびモレキュラーシービングカーボンの吸着等温線を測定し、その結果より有効的な貯蔵量を算出し、コスト、ハンドリングによる評価を行い、その結果最も貯蔵能力に優れている活性炭として「活性炭E」を選定した。そして、消化ガスの吸着貯蔵はメタン、二酸化炭素の混合吸着であり、それらの2成分の吸着量を算出する必要があるため、多成分高圧吸着平衡装置を作製して活性炭Eについて実験を行った。実験結果をToth式によるIAS理論を用いて解析を行った結果、実験値と平均7%以内で一致し、適用できることが確認できたため任意の組成、圧力における吸着量を推測可能であることが示された。IAS理論を用いて消化ガス組成のガスの貯蔵量を推算した結果、圧縮貯蔵に比べて消化ガス貯蔵圧力である2気圧で22倍、5気圧で12倍の貯蔵量を得られることが明らかとなった。また、消化ガスの微量成分として存在する物質の吸着性能への影響把握を行うために、影響があると考えられる水分と微量有機物における影響評価を行った。その結果、吸着性能低下に寄与する因子は水分であることがわかり、水分を除去しない環境下で運転を続けると3ヶ月で吸着性能は半分以下になることが確認できた。また、微量有機物の影響は少なく、水分を除去すれば10年間同じ活性炭を使用しても約90%の性能が保持できることが確認できた。