三田 美紀
変異原性生成能を指標とした信濃川下流域水道原水の安全性評価
指導教官 小松俊哉 藤田昌一 姫野修司
信濃川は日本屈指の大河川であり、その表流水は多くの地点で水道原水として利用されている。水道水には種々の微量化学物質が含まれていることから、その総括的な安全性評価にはバイオアッセイ法が有効であり、遺伝子毒性の観点からは変異原性を評価する代表的なバイオアッセイ法であるAmes変異原性試験が有効である。この試験を用いて、1990年の調査で、信濃川を原水とする水道水において変異原性を示すこと、また1993年の調査では、新潟市は全国的にみてやや高いレベルであることが報告されている。このため、水道水における変異原性の低減が望まれている。
そこで、現在の水道水における変異原性強度の把握を行なうため、2002年1月から12月までを月1回,6ヶ所について変異原性を測定した。
信濃川下流域の水道水について、TA100−S9条件下において 70 検体中 56検体で変異原性を示した。季節変動は、夏期・秋季より冬期・春期の方が高い傾向を示した。一方、地点変動については、測定範囲内における最上流地点より下流域の方が変異原性は高く、流下に伴う変異原性の増加傾向が認められた。
年平均値は590〜1,000 net rev. / L であり、発がんリスクと関連させた評価(生涯発がんリスク10-5)からは、リスクレベルは低いと判断された。しかし、1月から4月(冬期・春期)において変異原性は高めであることから、この時期の特に測定範囲内の下流地点については、水道水の変異原性は留意する必要があると考えられた。
1992〜1993年に行なった日本全国の水道水の変異原性調査結果より、新潟市は平均 2,600 net rev. / L だったのに対し、今回 920 net rev. / L になったのは、十分下がったと言える。さらに、日本都市部の水道水の変異原性は平均 2,000 net rev. / L 程度であることから、信濃川を原水とする水道水は日本全国からみて随分低いレベルであることがわかった。
このように水道水が変異原性を示す主要な原因としては、水道原水中に含まれる変異原前駆物質が、衛生的に不可欠である塩素処理により変異原性物質に変化するためである。したがって、水道水の変異原性は水道原水に大きく支配されることから、変異原性の低減には、水道原水にどの程度変異原前駆物質が含まれているのかを評価することが重要となってくる。その変異原前駆物質強度の指標として、塩素を添加した水試料の変異原性を測定する、変異原性生成能(Mutagen Formation Potential:MFP)が提案されている。
そこで、水道原水(信濃川下流域の表流水)の安全性評価を2001年10月から2002年12月までを月1回,8ヶ所について変異原性生成能を指標として行なった。
信濃川下流域においてもTA100−S9条件の寄与率が最も高く、108 検体中90 検体で変異原性を示した。季節変動は、春期・夏期より秋季・冬期の方が変異原性は統計的に有意に高かった。これは、淀川水系や吉井川水系と同様の結果であった。一方、地点変動については、季節変動ほどの差はなかったものの、長岡市(柿川合流地点)および新潟市の方がその他の地点よりも変異原性は統計的に有意に高かった。
実験値より水道水の変異原性と水道原水の変異原性生成能と有意な差は認められなかったことより、発がんリスクと関連させた評価を用いることとした。年平均値は740〜1,300 net rev. / Lであり、リスクレベルは低かった。しかし、2002年1月での地点A,B,D,Eにおいて 3,000 net rev. / L 以上であった1月においては留意する必要がある。
ちなみに、人的汚染の少ないと考えられる長岡市内の山頂付近の小河川をバックグラウンドと信濃川下流域の水道原水との大きな差は認められなかった。
したがって、季節変動することやバックグラウンドとは大きな差は認められなかったことから、信濃川下流域の主な変異原前駆物質は自然由来であることと考えられた。以上から、信濃川下流域における水道原水のリスクレベルは低いと結論付けられた。
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