小林 直樹
鋼板遮水システム最終処分場における鋼板の腐食因子と防食法に関する研究
小松俊哉、藤田昌一、姫野修司
現在、確実な遮水が行える埋立地が求められている中、遮水材に鋼板を用いたシステムが開発されている。鋼板は水を全く通さない材料であるので信頼性は高いが、腐食が起こりうる。しかし、廃棄物中での腐食速度および防食効果についてはほとんど測定されていないのが現状である。そのため鋼板を遮水工として用いる場合、@電気防食、A塗装、B腐食しろによる防食が必要と考えられる。腐食しろとは予め鋼板の腐食量を想定してその分の板厚を増しておく厚さのことで、これは全面平均腐食速度を参考に決定されるため、廃棄物中の腐食速度を正確に知る必要がある。
本研究では、鋼板の廃棄物中での腐食速度・腐食機構を把握すること、各種防食法の信頼性を確認することを目的とし、廃棄物中での腐食速度・防食効果の把握(野外曝露試験)と廃棄物中での鋼板腐食の支配因子の解明実験(室内浸漬試験)を行った。
野外曝露試験では産業廃棄物中(燃え殻、鉱さい、汚泥等)と焼却灰中、浸出水中に塗装試験片4種、未塗装試験片3種を一定期間埋設後取り出し腐食状態を検討した(総試験片枚数511枚、最長37ヵ月、同地点で数回測定)。その結果、未塗装片については廃棄物中でも特に焼却灰中において埋設方向、降雨条件に関わらず大きくなった。そこで焼却灰中の結果を合わせて全面平均腐食速度を求めたところ約 0.10 mm/year となった。廃棄物中での腐食因子の検討を行った結果、水分中の pH、塩化物イオン、溶存酸素(DO)による影響が推測された。焼却灰中で腐食速度が大きくなった原因としては可溶性塩類を多量に含有していること、および一般土壌中に比べ空隙が多く通気性も比較的良いことにより、水分中の酸素濃度が高くなることが予想された。
また、塗装による防食性能については付着力試験等の塗膜性能試験の結果、試験期間を通して塗膜の劣化は全く認められず健全であった。
電気防食については、腐食量調査で最も腐食の大きかった焼却灰中における効果の検討試験を行った結果、電気防食を行えば平均腐食速度は 0.01 mm/year となり、電気防食を行わない場合の 1/10 となった。このことから、塗装や電気防食は廃棄物中においても問題なく、長期間にわたって防食効果を発揮することが確認された。
室内浸漬試験では野外曝露試験で推測されたDO、焼却灰、塩化物イオン濃度、pH による影響の検討のため、処分場内で起こりうる条件を設定し未塗装鋼板による1年間連続の腐食試験を行った。その結果、DOの低い系では各条件(塩化物イオン濃度、pH 、焼却灰)に関わらず全て 0.04 mm/year 程度の低い腐食速度となった。一方、DOが高い系では塩化物イオンを多量に含有する条件において明らかに腐食速度が大きくなった。最も腐食速度が大きかったのは塩化物イオン 10000 mg/l の条件で 0.15 mm/year の腐食速度であった。
室内試験の結果から鋼板腐食に最も影響を与える因子は溶存酸素であり、溶存酸素の存在する場合のみ塩化物イオンが腐食に影響を与えることが示唆された。
また、焼却灰影響試験では鋼板腐食の促進は見られず、焼却灰量が多い条件で腐食が抑制されていた。これは、鋼板表面の白い付着物が鋼板と試験水との接触を妨げることで腐食を抑制したためと考えられる。この物質を採取しX線回折分析を行った結果炭酸カルシウムであることがわかった。焼却灰の条件では塩化物イオンの影響よりも、炭酸カルシウムによる表面保護の腐食抑制があることが明らかになった。
以上、本研究において廃棄物中における鋼板腐食は、焼却灰中において最も進行し、平均腐食速度は 0.10 mm/year であった。また、その最大の腐食因子は焼却灰中の水分に含まれる溶存酸素であることが示唆された。一方、室内実験から最大の平均腐食速度は 0.15 mm/year 程度であり、その条件は埋立処分場内で起こりうる鋼板腐食に最も過酷な条件ではないかと予想される。
これらのことから、平均全面腐食速度として 0.10 mm/year を用いることは十分信頼性があると思われる。さらに、廃棄物中でも塗装や電気防食は極めて有効であることが確認されたことから、それらの併用を行えば、設計耐用年数まで信頼性の高い遮水機能が保たれると考えられる。