弥富 洋介

熱分析を用いた一般廃棄物の熱分解挙動のモデル化

指導教官  小松俊哉、藤田昌一、姫野修司


 これまで一般廃棄物処理は主に焼却処理の後、残渣を埋立処分していた。しかし最終処分場の逼迫やダイオキシンの発生抑制、資源循環型社会に向けてのサーマル・マテリアルリサイクルの必要性から、熱分解ガス化溶融処理が注目されている。熱分解ガス化溶融処理は、廃棄物を低酸素雰囲気で熱分解させて炭化物とし、その炭化物を高温で燃焼・溶融させて結晶質のスラグを生成する処理方法である。この方法はスラグの有効利用による最終処分場の延命化や還元金属の回収が可能である等の利点がある一方、熱分解工程と溶融工程という2つの制御ポイントがあり、これまでの処理法に比べて運転制御が難しいため、効率的な運転管理の確立が求められている。また、熱分解残渣中のチャーを燃料として有効利用する研究も進められ、チャー発生量やその発熱量などの性状の把握が必要になってくる。

 これらの課題を解決するには、熱分解工程における一般廃棄物の挙動の予測が必須であると考え、熱分析によって熱分解挙動のモデル化を検討した。

 まず、熱分解挙動のモデル化にあたって、多種多組成である一般廃棄物を、組成割合調査を元に代表的な化学物質で表すことを検討し、可燃分の代表物質をバイオマスの主成分であるセルロース、キシラン、リグニンとし、プラスチック分をポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリスチレン(PS)とし、不燃分の代表試料を二酸化珪素(SiO2)とした。そして熱分析によって熱重量(TG)曲線を測定して、各代表物質のモデル化を行った。また、各代表物質の混合試料のTG曲線が、互いに独立して熱分解反応を起こし、各物質の熱分解モデルの加成によって表されることを確認した。

 次に、一般廃棄物を可燃分とプラスチック分とに分類した後、再び任意の割合で混合した試料を作成し、その試料のTG曲線が、代表物質の熱分解モデルの加成によって表されることを確認した。つまり、一般廃棄物の可燃分はセルロース、キシラン、リグニンで表され、プラスチック分はPE、PP、PSで表されたことから、代表物質の妥当性および一般廃棄物の熱分解挙動においてモデルの加成性が成り立つことが明らかになった。

 さらに、組成が不確かなRDFのTG曲線を、代表物質の熱分解モデルを加成することで近似したところ、近似による組成割合とRDF製造施設による組成データが概ね一致した。また、RDF特有の性質であるCaO、Ca(OH)2の添加については、これらの物質がRDFの熱分解挙動に影響を及ぼさないことが知見で得られているので一般廃棄物と同質と考えられる。したがって未知の一般廃棄物においても、そのTG曲線を近似することでおおよその組成割合の把握が可能であることが示唆された。
以上より、多組成である一般廃棄物の熱分解挙動が7種類の化学物質の熱分解モデルを加成することで表され、熱分解挙動のモデル化が可能であることが明らかになった。本研究によって、熱分解ガス化溶融処理設計において、ある計画ごみ質の熱分解挙動、つまりある反応温度での熱分解残渣量やその残渣中のチャー重量が予測でき、残渣の燃料比と溶融工程での反応温度などとを比較して運転条件の決定に応用することが可能である。また、チャーの燃料化についても、熱分解残渣中のチャー発生量が予測でき、チャー発熱量の把握が可能となることから、熱分解ガス化溶融処理の効率化に貢献できることが明らかになった。