牧 敬子
分子生物学的手法と嫌気共生培養系を利用した新規メタン生成古細菌の単離の試み
指導教官 大橋 晶良・原田 秀樹
近年の16S rRNA遺伝子情報の蓄積とその分子系統解析から、環境中には未だ分離培養されていない微生物が数多く存在することが明らかになっており、本研究で対象とするメタン生成古細菌もまた然りである。メタン生成古細菌は嫌気環境下での有機物分解の最終段階を担う微生物として知られており、現在までに26属96種の分離・同定がなされている。しかしながら、ここ最近、新規のメタン生成古細菌の分離報告例は極めて少ない。その理由の1つとして、通常水素資化性のメタン生成古細菌を培養する場合には、自然環境ではあり得ない200 kPaなどという極めて高い水素分圧で培養していることが考えられる。このような実際の環境とはかけ離れた条件下で培養を行った場合、水素に対して比較的親和性の低い水素資化性メタン生成古細菌が優占して生育してくる可能性がある。従って、実際の環境を模擬し、低い分圧で水素をコンスタントに供給可能な系を構築できれば、新規の水素資化性メタン生成古細菌の分離・培養が可能になるのではないかと考えた。そこで、私は低分圧の水素をコンスタントにゆっくりと供給できる系として嫌気共生培養系に着目し、新規のメタン生成古細菌の分離・培養を試みた。
いくつかの環境サンプルを植種源として嫌気共生培養系を構築可能な基質 (プロピオン酸、酪酸、エタノールおよび安息香酸) およびその対象系として高分圧の水素 (約200 kPa) を用いて、メタン生成古細菌の培養を試みた。その結果、高分圧の水素での培養ではMethanospirillum hungateiなどすでに分離された菌株の16S rDNA配列と高い相同性を持つ菌株のみしか培養ができなかったが、嫌気培養共生系を構築可能な基質の培養系からはMethanomicrobiales目に属す科レベルで新しい古細菌やrice cluster Iと呼ばれる目レベルで全く分離がなされていないグループに属する古細菌を培養することに成功した。これらの結果より低水素分圧の水素を供給可能な嫌気共生培養系を利用することで、全く分離されていない古細菌を選択的に培養できる可能性を示した。