江口 拓
UASB 法にDHSリアクターを組み合わせた新規低コスト型下水処理システムにおける溶存メタンの消長
大橋 晶良,原田 秀樹
本研究室ではUASBリアクターとDHSリアクターを組み合わせた新規の低コスト・省エネ型の下水処理システムを開発しており、卓越した有機物除去および高い硝化性能を有していることが確認されている。下水のような低濃度の排水をUASBリアクターで処理すると、発生するメタンの一部はガスとして回収できるものの、残りのメタンは処理水中に溶存して、ゆくゆくは大気に放出される。本システムでは後段のDHSリアクター内でUASB処理の残存有機物が好気的に微生物分解されており、溶存メタンがDHSリアクターから大気に気散されるだけでなく、微生物酸化されている可能性がある。そこで本研究では、どの程度の溶存メタンがDHSリアクター内で生物学的酸化分解されているのかを調べるために、FISH法 によりメタン酸化細菌の検出と定量を行い、物理的気散機構を記述する数学的モデルを構築すると共にメタン酸化活性試験を実施した。UASB処理水の溶存メタン濃度は,UASBリアクターから発生するメタンガス濃度に依存して決まり,平均972 μmol/L であった。UASB処理水が後段のDHSリアクターに送水される間に約50 %のメタンは大気へ気散していた。残存の溶存メタン405 μmol/Lは,DHSリアクターを流下する間に指数的に減少し、流下距離150cm付近で未検出となった。7種類のメタン酸化細菌に特異的なDNAプローブを使用したFISH法によるメタン酸化細菌の生息確認と存在量の測定を実施した結果、RuMP代謝経路を有するType 1メタン酸化細菌に属するMethylobacterグループであることが分かった。Methylobacterの存在量の分布結果(Gm705プローブを用いて定量)はメタン酸化活性分布の傾向と非常に一致しており、メタン酸化細菌が溶存メタンを酸化分解していることがわかった。しかも,メタン酸化細菌数が最も多かった流下1m付近では全菌数に対して12%も占めていた。さらに、溶存メタン濃度が検出量以下の微量濃度となった流下1.5m以降もMethylobacterが生存しメタン酸化活性を有していた。メタン消失の寄与度求めるためにメタン酸化活性値とDHSリアクター内での溶存メタン消長モデルを用いて、溶存メタン濃度プロファイルのシミュレーションを行った結果、溶存メタン濃度の測定値と計算値が非常に一致しており、簡単な数学的モデルであるが、溶存メタン濃度の消長を上手く表現することができた。このシミュレーションによりメタン酸化の寄与度を計算したところ8%であり、UASBから発生した溶存メタンの92%が物理的に気散している結果となった。