吉川 裕之

二枚貝のアスパラギン酸ラセマーゼ精製に関する研究

山田良平 解良芳夫 高橋祥司


 近年の微量分析等の発展によって、D-アミノ酸が哺乳類を含む多くの動物組織に分布していることが明らかとなり、その由来と生理的機能について関心が持たれている。これまで当研究室において、二枚貝の一種であるアカガイScapharca broughtonii とその近縁種であるサルボウガイScapharca subcrenata の足と外套膜にL-体と同量のD-アスパラギン酸が存在し、さらにアスパラギン酸ラセマーゼ活性も存在することが確認された。その後、アカガイScapharca broughtoniiの足先端178gから、硫酸ナトリウム分画、Blue Sepharoseカラム、Mono Sカラム、ゲル濾過Sephacryl S-100カラムクロマトグラフィーの精製過程を経て、比活性9.65μmol/min per mg・protein、タンパク質量0.0044mgの均一なアスパラギン酸ラセマーゼを得ることに世界で初めて成功し、いくつかの性質を明らかにした。しかし今後、さらに二枚貝由来アスパラギン酸ラセマーゼの諸性質を解明するためには、高比活性の精製酵素を大量に精製する必要がある。そこで本研究は、先に確立した精製方法をもとに、精製方法の改良を行った。まず、AMP SepharoseカラムをMono Sカラムの代わりに用いて精製を行った。その結果、274gの試料から比活性9.00μmol/min per mg・proteinで改良前の約10倍量の精製酵素標品を得ることができた。SDS-ポリアクリルアミドゲル電気泳動では前回同様、分子質量約38.5kDaの位置に単一のバンドを示した。このことから、今回の精製方法が大量精製に適していることがわかった。 しかし、比活性、活性回収率が改良前とほぼ同等であったことから、さらに改良を行なった。硫酸ナトリウム分画を30℃で加温しながら行なうことで、硫酸ナトリウムが完全に溶解するようになり、これまで3時間以上掛かっていた操作時間が約2時間に短縮され、比活性、活性回収率の向上も見られた。また、Blue Sepharoseカラムクロマトグラフィーでは、試料をアプライする前にカラムの洗浄を行なうことで、比活性、活性回収率の向上が見られ、毎回安定した部分精製酵素を得ることができた。しかし、その後の精製では均一な精製酵素標品を得ることはできなかった。 次にアカガイの近縁種であるサルボウガイScapharca subcrenataのアスパラギン酸ラセマーゼの精製を試みた。試料の量が少なかったために最終段階まで達することはできなかったが、AMP Sepharoseカラムとの親和性がアカガイよりも強いように思われ、比活性も高かった。また、1st Sephacryl S-100カラムによる夾雑タンパク質の除去も効率が高く、アカガイよりも精製しやすいように思われた。しかしながら、アカガイ、サルボウガイ、いずれからの本酵素の精製にも大きな問題が残された。それは分解され失活した本酵素と思われる分子質量約35.0 kDaのタンパク質を分離することが難しいということである。この問題を解決するには、失活を最小限に抑えるしかなく、ひとつひとつの操作を慎重かつ短時間で行なうよう努力する必要がある。