廣川 和也

含塩素有機リン酸トリエステル分解微生物単離の検討

指導教官 山田良平 解良芳夫 高橋祥司

有機リン酸トリエステル類は、プラスチック製品の難燃性可塑剤、工業機械の潤滑油添加剤、殺虫剤などの幅広い分野で用いられており、これまで大量に生産されてきた。これらの有機リン酸トリエステル類は、プラスチック製品の廃棄処理や農薬の使用によって地下水や河川に容易に溶け出し、水環境を汚染し、水圏生物に悪影響をおよぼす可能性がある。
有機リン酸トリエステル類の中でも Tris(1,3-dichloro-2-propyl) phosphate(以下TDCPPと略す)といった塩素を含むものは、毒性が強く発ガン性物質であることが知られている。また、これらの化合物は化学的な変化を受けづらく、微生物による分解もこれまで報告されていない。そこで本研究では、含塩素有機リン酸トリエステルを分解して無毒化する微生物の単離を試みた。
野外採取した27の試料を、TDCPPを唯一の炭素源とした完全合成培地に接種し、集積培養を行った。その後、生育のみられた培養液を用いた単離操作によって、8つの菌株を選抜した。8菌株について培養液中のTDCPP濃度をガスクロマトグラフィー分析によって測定した結果、上富岡農業地の泥から単離された菌株No.18が最も高いTDCPP減少能を示した。
次に、培養液中のTDCPP濃度を経日的に測定したところ、20日間で7.2%の減少が認められた。またこのとき同時に、培養液中の塩化物イオンの遊離が確認された。しかしながら塩化物イオンの遊離量はTDCPPの減少量に比べて高い値を示し、化学量論的に一致せず、その関係を明確にすることができなかった。
TDCPP減少能を向上させるため、菌株No.18の16SリボソームRNAをコードする遺伝子の配列に基づいて分類同定し、その特性について検討することにした。分類同定を行った結果、Acinetobacter 属であることが示唆された。
次に、培養条件によるTDCPP減少率の変化について検討した。エタノールを添加して生育を向上させ、培養行った結果、TDCPP減少が認められなくなった。このことから、培養液中のエタノールがTDCPP減少に影響を与えることが示唆された。一方、リン源を制限して培養を行ったが、TDCPP減少には影響を与えなかった。
今後、培養中の培養液の性質を明らかにし、培養条件の向上の検討および本菌株がTDCPPに対する分解微生物かどうかを究明することが必要であると考えられる。