大城 雄一
酵母Cryptococcus humicolus UJ1の自律複製型ベクター構築の検討
山田 良平, 解良 芳夫, 高橋 祥司
我々の研究室では、生体内における遊離 D-アスパラギン酸の D-アスパラギン酸酸化酵素による検出法を着想し、本酵素の調製が容易な微生物にその供給源を求め、酵母 Cryptococcus humicolus UJ1 を土壌から単離した。本酵母は、D-アスパラギン酸を唯一の窒素源として生育させた場合にのみ、D-アスパラギン酸酸化酵素を多量に誘導合成することから、本酵母においてD-アスパラギン酸の構造を認識する発現制御機構が存在すると考えられた。そこで、当研究室ではこの機構を解明するため、現在までにベクターとして選択マーカーのオロチジン-5'-リン酸脱炭酸酵素遺伝子(URA3遺伝子)を有する染色体組込み型ベクター pICUG と、宿主として染色体 DNA の URA3 遺伝子に変異をかけたウラシル栄養要求性変異株である C. humicolus UM3 株を構築し、染色体組込みによる形質転換系を開発している。この系はベクターが宿主染色体 DNA に組込まれるため、導入後のベクターの回収が困難な特徴を有している。
そこで本研究では、本酵母の染色体DNAから複製起点として機能する自律複製配列(ARS: Autonomously Replicating Sequence)の単離を検討すると共に pICUG へ挿入して、宿主染色体 DNA 外で維持される回収の容易な自律複製型ベクターの構築を検討する。
本酵母の ARS を単離するために、1〜6 kbp の UJ1 株染色体 DNA 断片を pICUG と連結した後、大腸菌へ導入し、約26万個の大腸菌形質転換体コロニーからなる UJ1 部分染色体DNAライブラリーを構築した。構築したライブラリーにより UM3 株を形質転換したところ、多数の UM3 株形質転換体を得ることに成功した。次に、UM3 株形質転換体からプラスミドを回収して解析したところ、異なる UJ1 株染色体 DNA 断片を有する複数種のプラスミドの存在が明らかとなった。これらのプラスミドの UM3 株形質転換効率を評価したところ、pUAH11 と名付けたプラスミドの効率が 17 transformants / μg DNA と、最も高かった。pUAH11 による UM3 株形質転換体の、全DNAに対するサザンブロット解析を行ったところ、pUAH11 が染色体DNA外で存在していることが明らかとなった。pUAH11 がもつ UJ1 株染色体 DNA 断片の解析を行った結果、5つの DNA 断片からなる全長約 7.8 kbp の DNA 断片が存在した。これらの DNA 断片をそれぞれ pICUG に組込み、構築したプラスミドの UM3 株形質転換効率を評価したところ、pUA3 と名付けたプラスミドの効率が最も高かった。しかし pUA3 の形質転換効率は、他の酵母における自律複製型ベクターと比較してはるかに低いことから、今後形質転換条件を最適化する検討が必要である。