加地 智彦
人工雪崩による雪崩災害予防法に関する研究
早川 典生
人工雪崩による雪崩災害予防法は、急峻な山岳地への道路やレジャー施設の建設拡大にともない、近年注目されている。本研究では「人工雪崩誘発技術の正確性・安全性の向上」を目的として、以下の3通りのアプローチで検討した。
雪中爆破実験では、わが国で最も一般的な「パイル状装薬法による人工雪崩誘発技術」について、積雪層の破壊と誘発雪崩の流下に焦点を絞った実験的研究を行なった。現地実験は山腹斜面において、@広範囲に装薬し、爆破による積雪層の破壊および流下状況を観察する実験、A基礎的な破壊機構を観察する小規模実験を行った。その結果、観察された破壊状況と硬度測定結果より、隣接爆薬の同時爆破によって圧縮凝固される部分と、破壊される部分の存在を確認した。
判別分析による人工雪崩の発生予測では、スキー場の雪崩制御法として期待される「雪崩誘発装置ガゼックス」について、その稼動結果を事前に予測する「雪崩誘発予測式」を判別分析手法により作成した。予測式の説明変量は、気象データを整理することで得られる複数の要因の中から最適なものを選出し、それらについてさらにF検定を行うことで決定した。作成された予測式により正答率75〜85%の良好な結果が得られた。また、選ばれた説明変量は現地状況を反映した妥当なものであった。今後は、誘発結果の確認されたデータを増やすことが重要な課題である。そこで、本研究ではガゼックスと併せて、雪崩検知システムを導入することで、それが可能になるとし、総合的なスキー場の雪崩管理システムの提案を行った。
数値計算による雪崩動態解析では、人工雪崩によって誘発された雪崩の速度・形態を予測するため、数値シミュレーションを行った。雪崩モデルとしては、サーマル理論を発展させたモデルを採用している。すなわち、煙り型雪崩については、内部の乱流構造を考慮した4式モデルを適用し、流れ型雪崩についてはその形状および運動特性を考慮した3式モデルを適用している。数値計算はパラメータの応答および実測雪崩の再現について、概ね良好な結果を示した。しかし、構成式および計算条件に多くの仮定を含むため、信頼性の高い結果とは現段階ではいえない。そこで、今後信頼性を高めるには、実際の雪崩の観察が不可欠なことを指摘した。