猪野 祐一
地中水の浸透解析と分布型水文モデル
早川 典生
雨量―河川流量変換系の最新技術である分布型流出モデルの作成において,地表面流出,浸透流発生をモデル化する新安江モデルのような貯水槽モデルが分布型的に組み込まれている.この貯水槽モデルでは,降雨または浸透水を貯水層に貯留し,流出または浸透させる.しかしながら,これらのモデルのパラメータが実際の土層中の水分輸送と対応しているかどうかが明確ではない.そこで本研究では,雨水の地中への浸透過程を,不飽和浸透流の基礎方程式を数値的に解くことにより解明する.その結果から新安江モデルにおけるパラメータを算出し,それらのパラメータの意義を明らかにすることを目的としている.
降雨を不飽和な土層の表面に与え,土層中における浸透過程を不飽和浸透流の基礎式(Richardsの方程式)によって数値解析した.
まず一次元のモデルを構築し,浅沼らによる屋外での成田砂圃場における観測と,Boulierによる実験室内での砂質土における実験の再現を行った.それぞれの場合で,計算値と実測値の浸潤線の降下位置において比較したところ,よい一致が得られた.
次に三次元の実流域の地形を基にモデル地形を構築し,地中に浸透できずに流出するものを表面流出,浸透して土壌中を移動し河川などに流出するものを中間流出として分離した.これについては,透水性の低い関東ロームと,透水性の良い成田砂について計算を行い,土壌による流出特性の違いをみた.10mm/hと100mm/hの降雨を与えた場合の結果で,中間流出は,成田砂では関東ロームと比較して急激に発生し,降雨を連続して与えた場合の収束も早く,流量自体も大きな値となった.表面流出では,中間流出とは逆で関東ロームの方が大きな値となり,成田砂において100mm/h程度の降雨では表面流出は発生しなかった.
最後に,三次元の結果を用いて新安江モデルのパラメータ算出を行った.浸透流が直接関係している地下水流出減衰係数Cg,と最終浸透能Fcの算出を行った.Cgは無次元であるが時間単位によって変わる値であるため,貯留係数Kにて比較することとした.降雨10mm/hでのKは関東ロームで2.27hour,成田砂で1.91hourとなった.十分に大きな降雨(1000mm/h)を与えた場合の結果で,Fcは成田砂で667mm/h,関東ロームで3.52mm/hという値となった.それぞれ,土壌による透水性の違いをよく表していると言える.
このように,土壌物理学的な観点から,新安江モデルのパラメータの値を算出することができた.