横田 稔
連続繊維シートとコンクリートの付着特性に関する研究
近年,コンクリート構造物はビルドアンドスクラップの時代から,既設構造物の補修補強の時代になりつつある.既設構造物の補修補強工法は数多くの工法がある.その中で,連続繊維シート接着工法は施工性の面から注目され,施工例が急増している.連続繊維シート補強部材の耐力にはシートとコンクリートの付着特性が大きく関わるが,シートとコンクリートの付着特性に影響を与える要因に関する研究はまだ十分ではない.また,土木学会指針では,シートとコンクリート間の付着特性を曲げ耐力およびせん断耐力の算定に取り入れている.しかし,シートとコンクリート間の付着特性の変化が部材の力学性能に及ぼす影響について実験的に検討している例は少ない.そこで本研究では,連続繊維シートとコンクリート間の付着特性に及ぼす影響要因について検討および,シートとコンクリートの付着特性の変化が補修補強部材の力学性能に及ぼす影響について検討を行った.

 連続繊維シートとコンクリートの付着特性は,一軸引張付着試験により得られるシートのひずみ分布から,シートとコンクリートの界面の相対変位と付着応力の関係,およびその積分値である剥離破壊エネルギーを算出して評価した.

 連続繊維シートとコンクリートの付着特性に及ぼす各種要因として,アラミド繊維シートの種類,目付量,積層数,繰返し載荷およびコンクリート中の水分の影響について検討を行った.その結果,アラミド繊維シートの種類,目付量,積層数,繰返し載荷は付着特性に影響をほとんど及ぼさないことがわかった.コンクリート中の水分は付着剛性を低下させるが,界面剥離破壊エネルギーに及ぼす影響は小さいことがわかった.

 また,シートとコンクリートの付着特性の変化が補修補強部材の力学性能に及ぼす影響は,付着特性の変化を表面処理の有無および不陸修正材(パテ)の有無により行い,シート補強はりの曲げ試験を行うことで検討した.付着特性は,一軸引張付着試験により定量化した結果.界面剥離破壊エネルギーはパテ有が最も大きく,次に標準的処理,最も小さいのが処理無となった.この結果から,土木学会指針に示されている方法に基づき,曲げ耐力を計算すると界面剥離破壊エネルギーの増加とともに耐力が向上することを示した.はりの曲げ試験では界面剥離破壊エネルギーの増大により破壊モードも変化したために計算に応じた耐力の向上は見られなかった。しかし,破壊前の曲げ剛性は界面剥離破壊エネルギーの増大により向上効果が確認できた.