建設工学専攻 コンクリート研究室 櫻井 哲哉
鉄筋コンクリートのひび割れ幅に及ぼす乾燥収縮の影響
本研究は,ひび割れ幅に及ぼすひび割れ間コンクリートの乾燥収縮の影響を系統的に把握する
ことを試みるものである.ひび割れ間コンクリートの乾燥収縮,特にひび割れ面近傍の局所的な
乾燥収縮は,ひび割れ幅の増大に大きな影響を及ぼすが,乾燥収縮のひび割れ幅への影響は定量
的に把握されるまでには至っていない.そこで,本研究では,ひび割れ間コンクリートの乾燥収
縮に及ぼす影響を調べることを目的とした.具体的な検討要因としては,@ひび割れの有無によ
る影響,Aひび割れ間隔,Bひび割れ面からの乾燥,Cひび割れ面の形状,D鉄筋の拘束による
コンクリート乾燥収縮の抑制効果,E環境条件の影響である.これらの各要因について,鉄筋コ
ンクリート角柱供試体を用いた乾燥収縮試験を行った.
その結果,ひび割れの有無による乾燥収縮の差は,端部と中央部における乾燥後の変形の違い
であることが明らかとなった.これは,ひび割れ面であるひび割れ間コンクリート端面は側面か
らの収縮を受けると供試体中央部に比べ大きく変形するためである.すなわち,端面からの乾燥
がひび割れ間コンクリート側面の収縮に及ぼす影響は少ないが,ひび割れ面であるひび割れ間コ
ンクリート端面は側面からの収縮を受けると局所的に大きな変形を生じるため,その変形がひび
割れ幅の増大につながることを示した.
ひび割れ発生後,鉄筋の拘束が及ぼすひび割れ面近傍におけるコンクリートの収縮抑制効果を
検討するために行った試験結果より,ひび割れ間コンクリートの乾燥収縮ひずみは,鉄筋比1.0%
程度であれば,鉄筋の拘束の影響はほとんどなく,無筋コンクリートとほぼ同じ収縮量を示すこ
とが明らかとなった.これは,端部の変形量は,中心部(鉄筋位置)からコンクリート表面に向
け徐々に大きくなる傾向を示し,鉄筋の表面からコンクリート表面までの距離,すなわちかぶり
厚により端部の変形量が異なることが原因であることを示した.
屋内(恒温恒湿室)および屋外に暴露したコンクリート供試体の乾燥収縮ひずみを一年間計測
し,一定環境と変動する環境化におけるコンクリートのひずみの経時変化を比較した.その結果,
環境条件による比較では,屋外供試体の収縮・膨張は,日射および降雨に左右され,特に,降雨
がある場合はその影響を強く受け,コンクリートの水分の供給が長さ変化に大きな影響を及ぼす
ことを明らかにした.
本研究では,長期ひび割れ幅に及ぼすひび割れ間コンクリートの乾燥収縮の影響をひび割れ幅
やひび割れ面からの乾燥など種々の要因について検討を行った.ひび割れ面近傍のコンクリート
は,側面の乾燥を受けると局所的に大きな変形を示すこと,鉄筋拘束の影響を受けにくいことな
どから,部材中央部に比べ収縮量は増大する.このことより,通常の乾燥収縮試験により得られ
るコンクリートの収縮ひずみよりひび割れ面での収縮量は大きくなること,ひび割れ間コンクリ
ートの収縮量,すなわちひび割れ幅の増大量は,ひび割れ間コンクリート端面の変形に依存する
ことを示した.