コンクリート研究室 葛綿 智
透水性を有する地盤注入モルタルの水中打設に関する研究

概要

 現在の地盤注入・充填工法に使用される地中充填材は,施工性と強度は要求されるが,透水性は一般には必要とされていない。このため,地下水以下の空洞を透水性の低い材料で閉塞した場合,地下水の流れが変化し,地下構造物に作用する地下水圧の上昇,下流域における地盤沈下や井戸枯れなどが懸念される。これらの問題を解決するために透水性を有する地盤注入材の開発が必要であると考えられる。安田らは,練混ぜ中に独立気泡を連行する起泡剤と充填後に水素ガスを発生し,独立気泡を連続化する発泡剤を併用して,砂礫層程度の透水係数(1×10-2p/sec)と圧縮強度(1N/o2以上)を有する地盤注入モルタルを開発した。ただし,このモルタルは気中で製造,施工されたため,湧水が起こっているような現実の地下水中での施工性は検討されていない。

 そこで本研究では,安田の成果を水中施工に拡大し,水中で施工可能な地盤注入モルタルの材料設計について検討した。新たな地盤注入モルタルに要求される性能は,水中で施工が可能なこと,および砂礫層程度の透水係数(1×10-2p/sec)と圧縮強度(1N/o2以上)を有することとし,これらを達成するために,起泡剤,発泡剤,セルロース系増粘剤,および可塑化材を用い要求性能を満足するモルタルを材料設計について検討した。

 まず,水中施工を実現するモルタルの材料設計について検討した。安田の配合での水中打設とともに,水中での材料分離を考慮し,増粘剤添加率を増加させたモルタルの水中打設を試みた。その結果,安田の配合および増粘剤添加率を増加させたモルタルでは,気泡の抜け出しとセメント分の流失により透水係数,圧縮強度ともに低下し,水中施工は困難であることが明らかとなった。さらに,増粘剤の更なる増加や新たに可塑化材を用いたモルタルの水中施工性について検討した。水中施工性は,水中分離抵抗性試験により目視で判断した。その結果,増粘剤と可塑化材を併用することで,気泡の抜け出しとセメント分の流失を抑えることができ,水中施工が可能となった。圧縮強度は必要とされる強度(1N/o2以上)に達したが,透水係数は必要とされる透水係数(1×10-2p/sec)に達しない結果であった。

 続いて,モルタルの透水性と強度を改善する材料設計について検討した。増粘剤と可塑化材を併用し,水中施工が可能になったモルタルについて,起泡剤・発泡剤添加率を増加させ,透水係数と圧縮強度ともに要求性能を満足できるか実験的に検討した。その結果,水セメント比75%の配合では,起泡剤・発泡剤添加率を増加させても要求性能を満足する範囲に達しないことが分かった。そこで,水セメント比・砂セメント比を低下させることで圧縮強度を増加させ,さらに起泡剤・発泡剤を添加した結果,水セメント比55%,砂セメント比2.0,起泡剤添加率3.0%,発泡剤添加率0.6%の配合で要求性能を満足するモルタルを製造できることが明らかとなった。

 以上,増粘剤と可塑化材を併用することで水中施工が可能となり,さらに,水セメント比を低下させ,起泡剤・発泡剤を添加することで透水係数と圧縮強度ともに要求性能(透水係数1×10-2p/sec,圧縮強度1N/o2以上)を満足する配合を見出すことができた。