水工学研究室 中村 眞
3次元数値計算による広島湾の潮汐流に関する研究

 一般に、閉鎖性海域では、湾口部付近の潮流による水平循環流と、湾奥部の海水交換性の悪い停滞性水域が存在している。この流れの弱い停滞性水域では、富栄養な河川水や工業廃水が流入し、長時間滞留することから水質環境の悪化が問題となっている。また、停滞性水域は、流れが静穏なため格好の開発対象となり、さらに水質が悪化するという悪循環に陥っている。このような閉鎖性海域の有効利用と環境保全を考える為には、海域内の流動機構と海水交換性を明らかにし、その予測を可能にすることが重要な課題である。

そこで本研究では、代表的な閉鎖性水域である広島湾を例に、湾内の流れと海水交換に関する3次元数値シミュレーションを行い、湾内水の流動機構を把握する事を試みた。

本研究では、流れの3次元多層モデルを用いて、基礎方程式を陽的に差分し、潮汐流の数値シミュレーションをおこなった。

対象領域は、広島湾(南北約50km、東西約30kmの楕円形湾)とし、計算格子間隔は、600m×600mとした。また、水深を鉛直方向に11層に分割し、1〜6層を5m、7〜10層を10m、11層を20mの厚さとし、3次元数値シミュレーションを行った。

計算では、始めに、広島湾において潮流が安定するまでの周期を求め、シミュレーション実行周期を決定した。

次に、広島湾内の水位変動を求めた。この結果の再現性を確かめるため、観測値と比較した。また、湾内全体の水位変動の等深線図を描き、広島湾の水位変動特性も調べた。

次に、広島湾内1、3、5層の流速を求めた。この結果も、観測値と比較することにより再現性を確かめた。また、湾全体の潮流ベクトル図、等速線図を描くことにより、湾内の流況状態も調べた。湾内の潮汐流の最大流速は、湾口付近で30cm/s程度、湾奥部で3cm/s程度である事が分かった。また、計算値と観測値の流速は、非常によく一致したため、広島湾の潮汐流をよく再現できたことが分かり、湾内の流動機構を把握する手法として、3次元数値シミュレーションの有効性を確認した。

 次に、広島湾の長期間の流況特性を調べるため、潮汐残差流の検討を行った。これも、潮汐流と同様に、1、3、5層についての潮汐残差流の流速を求めた。また、ベクトル図を描き、潮汐残差流の流況特性も調べた。これについても、再現性を確かめるために、観測結果と比較した。また潮汐残差流の流速は、湾口付近で0.7cm/s、湾央付近で0.2cm/s、湾奥付近で0.7cm/s程度である事が分かった。この流速は、微小であり、広島湾の海水交換性は非常に悪く、海水は滞留しやすい事が分かった。