岸野 八洲雄
内湾における流動に関する数値モデルの開発

社会の工業化が進み、様々な化学物質が広く一般に使用されるようになり、生体に対する撹乱を与える化学物質が海域に放出され新たな海域環境問題として社会的関心が集まっている。海域環境問題の実態を把握するためには数値実験が不可欠である。本研究では、海域環境問題への応用へ資する目的で沿岸海洋における流動・物質拡散数値モデルの作成を行った。そして潮流、海上風、密度場などの外力の流れへの影響や水表面での熱フラックスによる密度場の変化などを与えて計算を行い、基礎的なモデルのパフォーマンスを確認することを目的としている。

 数値実験においては数値的に取り扱いが容易な直交矩形格子による計算領域の分割、基礎方程式の離散化を行い、内湾での流動シミュレーションモデルを作成した。流体を非圧縮性流体、圧力を静水圧近似と仮定した。この場合、2次元流動の基礎式は連続式とナビエ-ストークス方程式、静水圧の式を用いた。その他、海水の塩素量拡散、温度の拡散、密度の変化、地形を条件として与え、乱流モデルを適用する。乱流モデルについてはLESや 鉛直拡散係数についてリチャードソン数により評価する方法などを適宜採用した。海上からの熱フラックスの出入りや温度と塩分から密度を計算する方法などは文献の巻末などに掲載されている式を用いて厳密に評価した。

 本数値モデルに対する境界条件としては、海上風、大気と海水面間の熱の流入出、波の入射条件、構造物や海底面での固体壁の条件などがある。今回の数値計算は時間の制約のため長時間の計算は行っていない。このため2番目の大気・海水面上の熱の流入出は計算の結果にはほとんど影響しない。しかしながら長時間の計算については不可欠な条件である。計算領域は、水平方向10km、深さ方向約100m、時間間隔0.1秒で24800ステップの計算を行った。これは本来の目的に照らしてかなり時間が短いが、今回は基礎的な対象に適用してモデルとしての機能を確認するに止める。外力としては海上風および計算領域の端部から入射する長周期の波である。また、一様流体および温度と塩分を与えて安定な2成層の密度場に対して計算を行った。
本研究による知見は、基礎的な境界形状を持つ領域に対するシミュレーションモデルの作成により、時間経過に対する密度、流速、乱流粘性係数の分布状態を知ることができ、また、海上風、入射波、密度分布による条件を適宜変化させて計算を行い、密度分布が一様な場合と二成層の場合で界面の変動による流速変動を示すことができたことである。